チューリッヒ選手権のことを書く前に書く。

■Detergent enzyme to mask EPO? Ullrich named （First Edition Cycling News for October 2, 2006）
http://www.cyclingnews.com/news.php?id=news/2006/oct06/oct02news

上の記事のわかりやすい日本語要約↓

■EPO検出防止には...（masayangの日記（ピスト通勤他 　2006.10.1）
http://d.hatena.ne.jp/masayang/20061001/1159741937

要するに、とても単純＆簡単な方法で尿からEPOの痕跡を消すことができるんだけれども、
それをやると尿中のEPO値がゼロ（というかたぶんタンパクが全く検出されないんだろうな）という
ありえない値になってしまうという話。

かなりの割合のサンプルがこの「ありえない値」を示しているとか
ウルリッヒのサンプルがその中に入っているとかそういうことより。

ドーピングの分析というものが言われているほど当てにならないということについて
識者の人はもっと大々的に書き立てていいと思う。

私は水中の無機物濃度を測ったことしかありませんが。
＃尿中のタンパクとか血液中の抗体とかはもっと高度な技術と経験が必要
それでも、濃度分析がちょっとしたことでエラーになったり
妙な値になったりというのはよくあることで。
だからこそ、ありえない値が出たときには複数の可能性について検討するし、
それは分析過程で起こるエラーだけではなくて、
サンプルが得られたときの検体提供者の状態、背景、前後の分析値の変化、
対象物質以外の分析値まで含めて考えねばならんわけです。

今回の場合もそう。

　EPO値がゼロ→隠蔽が行われたに違いない→ゼロ値の人はEPOをやった

と決め付ける前に、
その他にEPO値がゼロになるような要因がある可能性を考えるべきだし、
WADA公認の検査機関の人も、自分とこの分析結果についてもっと慎重になったほうがいい。

いやいや、他の可能性も検討した上でそういう結論が導き出されたのかもしれませんね、
なんといってもWADA公認の専門家のみなさんが何人も頭を使って考えたのでしょうから。
したらば、タンパク質分解酵素を使ったのならその痕跡が何か尿に残っていてもおかしくないし、
そのあたりを確認するための手法の検討は当然もうやってるんでしょうね？

そもそも、専門家の人の言い分だけ読んでると、たとえば尿をまんま分析器に掛ければ、
EPOなりテストステロンなりの濃度がピピーンとはじき出されてくるように思えますが。

実際は、ろ過したり化学反応させたり電気泳動かけたりいろんなめんどうな作業をした上、
最終的に得られる数値は光の透過率だったり電気伝導度だったりで、
それをあらかじめ濃度がわかっている比較用のサンプルの結果に照らし合わせて
やっと濃度が算出できるわけですよ。

そういうあたりをすっ飛ばして
「IR-MSは大変信頼度の高い分析方法です」←分析方法はいろいろ読み替えてください
なんて言われても、それを頭から信用なんてできませんって。
むしろ、相手に専門知識が無いのをいいことに、
自分の都合のいい結果をごり押ししているとしか思えません。

どこかの英語メディアのドーピングの記事で
「科学をして真実を弄んでいる」
という表現がされていましたが、まさにその通りです。

・・・・というわけで、怒りにまかせて書いてしまいましたが。

私の言いたいことは。

　・化学分析は言われているほど万能でも正確でもない。

　・現時点で
　　　　EPO値がゼロの選手＝ドーピングをやってる
　　と考えるのは時期尚早なんでは？

ということなのであります。

いやまあしかし、マスコミはドーピングの話になると、
どうしてこうも気合が入るのか。
いや、大事な話だし気合を入れてもいいんですが、
気合を入れる方向が間違っている気がしてなりません。

＝＝＝

＜追記＞
moritaku-bearさんが、酸素分解酵素が添加された場合の分析結果について説明されています。
http://d.hatena.ne.jp/moritaku_bear/20061002/p3

この場合、尿中のタンパクがほぼ消失してしまうため分析不能となり、
それが酸素分解酵素（プロテアーゼ）が混入したことの十分な証拠となるとのことです。

生半可な知識でお騒がせしたことをお詫び申し上げます。
<(_ _)>



No.1587 - 2006/10/02
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