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ムック「ウルフランド」と『狼のレクイエム 番外篇』 - Name: カナメ No.1507 - 2017/05/06(Sat) 19:28:57
「平井和正の幻魔宇宙」「犬神」のことはしっかり覚えてましたが、もうひとつの平井和正ムック「ウルフランド」(1985年6月)のことをすっかり忘れておりました。書き下ろしの『真幻魔大戦 第三部』をどーんと掲載した「幻魔宇宙」と異なり、目玉の平井和正の小説がSFアドベンチャー誌で発表済みの『黄金の少女』の再録であったのは読者の評判芳しくなかったのか、その後継続して刊行されることはありませんでした。
その「ウルフランド」に掲載されたのが、鈴宮和由の『狼のレクイエム 番外篇』です。あの『『狼のレクイエム』改訂版』の漫画版です。
鈴宮和由さんも平井和正とはゆかりの深い漫画家で、商業誌デビューは「幻魔宇宙I」のイラストギャラリーです。そのきっかけは自分の描いた漫画を平井和正に送ったことでした。平井和正は「その絵のうまさは明らかにアマチュアのものではなかった」と語っています。その平井和正に送った漫画というのが、『『狼のレクイエム』改訂版』を題材にしたものでした。これらのエピソードも、「ウルフランド」に掲載されています。
「ウルフランド」に掲載された本作は、その漫画を全面的に描き直したものです。扉絵のみ鈴宮和由のコミックスに収録されているほかは、いまも単行本未収録です。鈴宮さんに封印の意志がないのなら、ぜひこちらも電子化してもらいたいなと思います。


Re: ムック「ウルフランド」と『狼のレクイエム 番外篇』 - Name: カナメ No.1508 - 2017/05/06(Sat) 19:32:17
ウルフランド


新作コミック『超犬リープ』 - Name: カナメ No.1496 - 2017/05/04(Thu) 15:08:39
実家で発掘シリーズ第二弾。画・大貫健一、ニューストーリー・風野真知雄。「コミックガンマ」1995年11月号から1996年6月号(4月号は休載)にかけて全6回にわたって連載されました。
原作を踏襲しているのはタイトルと、シェパード型のロボットという設定のみ。リープがもともと普通の飼い犬であることも含めて、続編でもリメイクでもない完全新作。
リープの主人は三芳野苺、小学5年生。その父、三芳野博士は世界的科学者で、彼の発明した画期的テクノロジーを手中にせんと、環境保護団体を謳う組織サイレント・リベンジャー協会からつけ狙われる。発砲までされ、リープが重症を負うに及んで、家族の身を案じた博士は、リープをサイボーグ化することを決意する。サイレント・リベンジャー協会の首魁は、同じ人間とは思えない不気味な外見をした未来人。彼のもといた未来世界は、三芳野博士の発明が戦争に用いられ、人類がそのような姿なってしまった。彼は三芳野博士の発明を葬り去り未来を変え、そして過去の人類に復讐するために、この世界にやってきたのだ。……という壮大なプロットが明らかにされたところで、掲載誌が事実上の廃刊となり、これからというところで幕を閉じてしまいます。最後のページに予告されていた単行本も、出ることはありませんでした。電子書籍化が望まれます。


Re: 新作コミック『超犬リープ』 - Name: カナメ No.1497 - 2017/05/04(Thu) 15:12:25
「コミックガンマ」1996年1月号


Re: 新作コミック『超犬リープ』 - Name: カナメ No.1498 - 2017/05/04(Thu) 15:13:56
「コミックガンマ」1995年11月号扉ページ


Re: 新作コミック『超犬リープ』 - Name: カナメ No.1499 - 2017/05/04(Thu) 15:17:59
「コミックガンマ」1996年6月号最終ページ


余湖ゆうき『転生』 - Name: カナメ No.1495 - 2017/05/04(Thu) 00:02:33
実家で発掘しました。「月刊少年マガジンGREAT」1993年1月号増刊号掲載。余湖裕輝幻のデビュー作。まだまだ未完成なフレッシュ感あふれまくりな絵柄と原作ストーリーの相性が絶妙。『バチ▼ガミ』が電子書籍化される際には、ぜひ収録してもらいたいなと思います。


幻魔大戦Rebirthの元ネタ紹介(5) - Name: ギルガメッシュがマイタイプの幻魔大戦ジプシー No.1494 - 2017/05/03(Wed) 13:50:53
幻魔大戦 Rebirth 5巻が発売されたので、元ネタのチェックをしてみました。

第25話 見知らぬ世界?T
P24-26 ミュータント・サブのミイラ
イナズマン超人戦記のオマージュ

P36 東卓登場

第26話 見知らぬ世界?U
三輪真名登場
デザインソースは、セクサドールのドール、イナズマンの小巻先生
https://twitter.com/PPPppppppQQQ/status/855912892733956096
平井和正作品としての元ネタは、「池上遼一版スパイダーマン」の『金色の目の魔女』や「魔女の標的」の三輪真名児、新幻魔大戦に登場する女賊 白蛇の真名児(真幻魔大戦では真名鬼と改名されている)

杉村遊奈登場
デザインソースは、千の目先生 千草カオル。
ちなみに「好き! すき!! 魔女先生」(主人公:月ひかる)は原作を千の目先生としているが、内容としては、主人公が超能力を持つ新任女性教師という部分のみが同じ名だけで、キャラクターデザインやストーリーはTVドラマ向けに新たに仕立てたもの。
https://twitter.com/FelipeOnodera/status/850984650591748096
野生時代版幻魔大戦の杉村由紀をGENKENの秘書としてではなく東丈の学校の先生として登場させたかったので、杉村遊奈でそれを実現させたらしいです。おそらく体のどこかに赤い不死蝶の痣があると思うのですが、杉村遊奈はどちらかというと杉村由紀の方に近い位置づけかもしれないです。先日、Kindleで「幻魔大戦スペシャル その日の午後、砲台山で」では、黒髪・黒目の千草カオルをイメージしながら読み進めました。

ちなみに、ミュータント・サブは千の目先生にスターシステム的に登場しています。
役どころは、千草カオルの兄・画家の坂本三郎。これはあくまでスターシステムで別の役(設定)で出ているだけなので、幻魔大戦Rebirthの風田三郎が杉村遊奈の兄というわけではないと思います。
https://twitter.com/FelipeOnodera/status/850993271237038081

レオナード・タイガーマン博士(a.k.a ドク・タイガー)登場

第27話 見知らぬ世界?V

ドク・タイガーが不審者として学校に侵入してくるシーンは「池上遼一版スパイダーマン」の『金色の目の魔女』で同様のシーンがあり、それをリミックスしています。ちなみに金色の目の魔女に登場する不審者の名前はどうでも良いですが、坂本八郎です。
P94の老刑事 石ノ森章太郎の読み切り短編「追われる」に登場する老刑事。「追われる」は秋田書店Sunday comics版サイボーグ009第10巻天使編の巻末に収録の作品です。
P94の黒髪の若いほうの刑事 「怪人同盟」の団刑事。

第28話 見知らぬ世界?W
三輪真名を中傷する他校の教師。前出の坂本八郎と『金色の目の魔女』に登場する私立探偵赤原をミックスさせた感じのキャラ。
ちなみに赤原の助手というのが池上遼一版スパイダーマンの同エピソードに出てきますが、デザインソースが水木しげる作品によく出てくるサラリーマン山田です(池上遼一は水木しげるの元アシスタント)。

P122の教頭先生が頭から落下するシーンは、イナズマンで小巻先生に教室の壁を破られて、風田サブロウが地面に落下するシーンのオマージュです。

第29話 見知らぬ世界?X
杉村遊奈がかざす白銀に輝く釵。気になる人には、e文庫から出ている真幻魔大戦の第5巻/第7巻がおススメです。
P144 「敵意のベクトルを曲げただけ」。e文庫から出版される真幻魔大戦第13巻あたりに「わずかに干渉して、ベクトルを変えてやればよかったのだ。」という表現が出てきますが、それを踏襲した意味だと思います。

田崎忠登場。野生時代版幻魔大戦の田崎宏の関係者と思われます。

役行者の祠と洞窟の壁の彫像。e文庫で配信されている真幻魔大戦第8巻以降を参照。


第30話 見知らぬ世界?Y
P168-176 東丈の前世については、細かく書くと、ネタバレになってしまいます。
下記の小説を参照先として書いておきます。
e文庫 新幻魔大戦。またそれの初出のコミック版は講談社の石ノ森章太郎デジタル大全 新幻魔大戦 1/2巻
※後者の石ノ森章太郎デジタル大全は、内容はほぼ小説と同じですが、巻末に早川書房SFマガジン1971年10月臨時増刊号に掲載されたコミック版「幻魔大戦」(少年マガジン版)のダイジェスト版 「幻魔大戦・抄」が前後編に分けて掲載されています。
e文庫 幻魔大戦 全20冊合本版
e文庫 真幻魔大戦

P168の2コマ目やP169の3コマ目の金髪の男性に関しては、できれば、「ハルマゲドンの少女」も読むほうが良いですが、まだe文庫から配信されていません。無理に古本で入手するのもアレなので、e文庫さんがリリースしてくれるのを待ちたいと思います(いずれ配信が開始されるe文庫 真幻魔大戦11巻以降を読んでもわかると思いますが)。

P191-192 雷撃で黒焦げになるシーンは、イナズマンで小巻先生に擬態した刺客が、お寺の鐘の中でイナズマンに雷撃されて黒焦げになるシーンか、新幻魔大戦のラストで由井正雪が真青な猛火に焼かれて黒焦げになるシーンのオマージュだと思います。

なんか1967年(昭和42年)4月15日発売の少年マガジン4月30日号に幻魔大戦の連載が始まってから50年たったらしいですね。
PCのカレンダーでチェックしたら、50年前は曜日が同じで、なんかこの号だけで土曜日発売みたいなんですよね(ちょっとそこが不思議に思う)。
幻魔大戦 50周年でググってみたら、こんなTwitterのモーメントを見つけました
https://twitter.com/i/moments/855637424084459520


夢も現も同じ 〜再読『その日の午後、砲台山で』(第二稿) - Name: カナメ No.1493 - 2017/05/01(Mon) 23:24:49
書き出しはエッセイ。どっこい語り手である平井和正の前に後藤由紀子が現れ、ストーリー仕立ての物語へと雪崩れ込む。さては『ビューティフル・ドリーマー』(『高橋留美子の優しい世界』収録)でやった「あとがき小説」か。いやいや、さにあらず。これは『地球樹の女神』『幻魔大戦』『ボヘミアンガラス・ストリート』『アブダクション』をまたに架けた、堂々たるスピンオフ小説なのです。

修羅くんにひっぱたかれて平井和正は幼児の四騎忍に変身、やがて地球樹本編と同じ中学生になって、東三千子や木村市枝と出逢い、作家・平井和正の知識を有する四騎忍として小説『幻魔大戦』の世界に介入する。そこで暴力団塚田組の凶漢・矢頭が杉村由紀を襲う、その歴史を変えてしまう。この展開がスリリングでね、本当にゾクゾクしました。
なんといっても常軌を逸したこの発想ですよ。まるで富野由悠季作品で地上人がバイストンウェルに召喚されるように、自らの創造した作品世界に作家・平井和正が引きずり込まれてしまうんですから。いや、念のために云っておきますが、その手の物語はありますよ、別段珍しくもない程度に。登場人物である「作家」が劇中劇である自身の創作世界に迷い込む、あるいは現実化する物語というのは。ワタシにも見た覚えがあります。しかし、仮にも有名人気作家が、リアルな自分自身をキャラにして、既存の自身の作品に手を加えるなどという例は、寡聞にして見聞きしたことがありません。つくづく、異常――常ならざることを旨とする作家なんだなと思います。これは小説という形式そのものをブチ壊す、新たな創造ですよ。

これは平井和正が見る夢の話です。夢だから、どんな不条理だって巻き起こる。けれど、それは小説世界の事実そのものです。夢オチで、なかったことになりはしません。なぜなら、これは作品世界の創造主・平井和正の夢であり、そして平井和正は“夢見る作家”なのですから。それを認めるか認めないかは、あなた次第です。

昔話をします。『幻魔大戦deep』で老齢で登場した東丈・三千子姉弟が、ともに何の脈絡もなく若返ってしまったことにドン引きしました。老境を迎えた東姉弟を描く、その新機軸に挑む冒険心、意気込みやよし。でも、結局は絵づらの良い年頃に若返ってしまう。脈絡なし、必然性なし、考えられる理由はひとつ、しんどなっただけですやん!――と。

自分で云うのも憚りながら、正論そのもの。東丈じいちゃん、三千子ばあちゃんで始めてみたけど、やっぱり若いほうがいいや、っていう邪推もたぶん正解。でも、平井和正読者としては、大事なことを見落としていました。『幻魔大戦deep』に着手したのは、まさにこの『その日の午後、砲台山で』を書いたあとであって、それを踏まえれば東姉弟の若返りなど、むべなるかな。夢も現(うつつ)も同じ。それが平井和正の認識、世界観そのものなのですから。

地球樹と幻魔は違う作品ですよ。夢見る作家・平井和正に、そんな常識を説いたって聞く耳はありません。彼のなかでは、それらは一如なのです。
異なる作品と作品のその境界線が揺らぎ、消え、融合する。そしてそれは、作品世界だけにどまらない。作者と登場人物、エッセイと小説、究極は現実と虚構にまで及ぶ。それらは不確かで、定形をとどめず、自在に変化する。キャラの年齢なんて、云うに及ばず。それは単に作家である自らが創作したファンタジーではなく、まさにそんなマジカルワールドを平井和正は生きていたのだと思います。
その認識を受け容れられないひとは、いきおいこの作品をウルフランド的セルフパロディとして遇するでしょう。かつてのワタシのように。※
もちろん、小説の解釈に正しいも間違いもありません。そういう解釈も、それはそれです。けれど、いまのワタシはこの作品、リアルに受け止めます。正編の『地球樹の女神』や『幻魔大戦』とは別の平行宇宙に、この世界も存在するのだと。そう思ったほうが絶対面白い。平井和正だって、そのつもりで書いたに違いないのです。

http://www1.rocketbbs.com/612/bbs.cgi?id=t_kaname&mode=pickup&no=829

夢だから何でもあり、どんな不条理も起こり得る。その法則の限定解除が、エンターテインメントとしてプラスに働くか、興醒めを招くかは、また別問題です。少なくともこの作品については、心の底から面白いとワタシは感じました。

初出時に一度だけ読んで、干支がひと回りして再読したのですが、こうも印象が変わるものかと吃驚しました。ひとは変わる、成長する。読みのレンジも、考えも、感性も。だから昔読んだ作品の印象も変わり得る。ああ、とうとうワタシの身にもヒライストあるあるの「お迎え」が来たのだなと(笑)、そんな風にがっかりした作品も、次に読めばまた違って見えるかもしれないと、あらためてそう思ったのでした。


再読『その日の午後、砲台山で』 - Name: カナメ No.1492 - 2017/04/30(Sun) 12:54:01
昔話をします。『幻魔大戦deep』で老齢で登場した東丈・三千子姉弟が、ともに何の脈絡もなく若返ってしまったことにドン引きしました。魔法、奇蹟って云や何でもありか? しんどなっただけですやん――と。前々作『インフィニティ・ブルー』から、心の底では感じていたこと。でも、熱烈一途な信者であったワタシが、無意識のうちに意識すまいとしていたこと。それが公式サイト掲示板等での一部言動に真面目にムカついて、ワタシの中でのカリスマ性が揺らいだことで、それまで心理的タブーであった批判的考察が解き放たれました。平井和正は作家として衰えたのではないか?――と。
冒険心は認める。これまでやらなかったことに挑む。インブルでマフィアの御曹司を主役に据え、deepでは老境を迎えた東姉弟を描く。その意気やよし。ところが、物語が進むにつれ、新機軸はどこへやら、『月光魔術團』でおなじみのノリになってゆく。deepでの三千子と丈の若返りがとどめを刺しました。脈絡なし、必然性なし。考えられる理由はひとつ。もう一度云います、しんどなっただけですやん!

『その日の午後、砲台山で』はエッセイ風の作者のひとり語りで始まります。その作者・平井和正の前に後藤由紀子が現れる。『地球樹の女神』には、もともと幕間のインターバルに作者が登場し、キャラクターと会話を交わします。だから、そこまでは別に驚くにはあたらないのですが。
しかし、その平井和正が四騎忍に変身――最初は幼児の、次に中学生に――し、さらには東三千子や木村市枝と出逢い、作家・平井和正の知識を有する四騎忍として小説『幻魔大戦』の世界に介入し、暴力団塚田組の凶漢・矢頭が杉村由紀を襲う、その歴史を変えてしまう。この展開がスリリングでね、本当にゾクゾクしました。
なんといっても、常軌を逸したこの発想ですよ。まるで富野由悠季作品で地上人がバイストンウェルに召喚されるように、自らの創造した作品世界に作家・平井和正が引きずり込まれてしまうんですから。いや、念のために云っておきますが、その手の物語はありますよ、別段珍しくもない程度に。登場人物である「作家」が劇中劇である自身の創作世界に迷い込む、あるいは現実化する物語というのは。ワタシにも見た覚えがあります。しかし、仮にも有名人気作家が、リアルな自分自身をキャラにして、既存の自身の作品に手を加えるなどという例は、寡聞にして見たことがありません。つくづく、異常――常ならざることを旨とする作家なんだなと思います、平井和正って。これは小説という形式そのものを破壊する、新たな創造ですよ。
冒頭でお話しした昔話、その見解がこれでコペ転したわけでは、さすがにありません。ですが、あらためてこの作品に触れたことで、なんか常識に囚われてたなとは思うようになりました。平井和正にはそういう常識の縛りが一切ない。限りなく自由。『地球樹の女神』と『幻魔大戦』は異なる作品である。その当たり前の認識がそもそも、ない。それらは一如なのだと。
異なる作品と作品のその境界線が揺らぎ、消え、融合する。そしてそれは、作品世界だけにどまらない。キャラの年齢はもとより、作者と登場人物、小説とエッセイ、究極は現実と虚構にまで及ぶ。それらが不確かで、定形をとどめず、自在に変化する。それは単に作家である自らが創造したファンタジーではなく、まさにそんなマジカルワールドを平井和正は生きていたのだと思います。
その認識を受け容れられないひとは、いきおいこの作品をウルフランド的セルフパロディとして片付けるでしょう。かつてのワタシのように。※
もちろん、小説の解釈に正しいも間違いもありません。そういう解釈も、それはそれです。けれど、いまのワタシはこの作品、リアルに受け止めます。正編の『地球樹の女神』や『幻魔大戦』とは別の平行宇宙に、この世界も存在するのだと。そう受け止めたほうが絶対面白い。平井和正だって、そのつもりで書いたに違いないのです。

http://www1.rocketbbs.com/612/bbs.cgi?id=t_kaname&mode=pickup&no=829

ここからは余談です。
アマゾンからキンドル版が発売されましたが、ワタシは『地球樹の女神 -最終版-』CD-ROMに収録されたドットブック版で読み返しました。ドットブックはKinoppyを使ってスマホでも読めるのですが、一部の文字が文字化けしてしまうのですよね。前後の文脈から見当はつくのですが、やだなあと思っていたら、これって修正パッチがあったんですね。すっかり忘れてました。修正パッチはいまもe文庫サイトにアップされていて、入手可能です。

間違いじゃないの? という気になる記述がありました。
杉村由紀は固く直哉の学生服をつかんだまま放そうとしなかった。
直哉なんてこのシーンにいないどころか登場しないし、どう考えたって由紀がつかんでいる学生服は四騎忍のそれのはずなんですが、でも校正で見逃すミスとも思えず、気になっていました。修正パッチを当てても、ここは変わりませんでした。
キンドル版で確かめたら、おれに修正されてました(笑)。生前の先生に確認したかは深く追及しませんが。

キンドル版の前サブには「幻魔大戦スペシャル」と銘打たれています。『地球樹の女神 -最終版-』CD-ROM収録分では秘されましたが、別個に販売する分には確かにこれは謳ったほうがいいでしょう。主人公こそ四騎忍=平井和正ですが、比重から云えば地球樹番外編というよりは幻魔大戦枝編なんですよ。特に『ハルマゲドンの少女』でさえ語られなかった、高鳥慶輔のその後の動向が語られていて、ファンには見逃せません。こんな重要なことも、すっかり忘れてました。

四騎忍相手にちょっぴり不良モードの木村市枝がいい。『幻魔大戦』の市枝って、生真面目な印象が強いですが、それは周囲の人々との関係性(東丈、三千子、田崎など)がそうさせるので、元黒バラ会(なぜか本作中では「黒百合会」でしたが)ヘッドの不良の地が消えたわけでは決してないのですよね。軽い不審や反撥を覚える忍に、親しい康夫とのタメ口以上に不良の地金を見せる市枝は素敵に新鮮でした。

『ボヘミアンガラス・ストリート』のパートは、本編のディティールをほとんど忘れていて、十全に愉しめなかったのが悔しい。ボヘガラを読み返したら(いったいいつになることやら)、あらためて味わい直してみたいと思います。

初出時に一度だけ読んで、干支がひと周りして再読したのですが、こうも印象が変わるものかと吃驚しました。ひとは変わる、成長する。読みのレンジも、考えも、感性も変わる。だから昔読んだ作品の印象も変わり得る。ああ、とうとうワタシの身にもヒライストあるあるの「お迎え」が来たのだなと(笑)、そんな風にがっかりした作品も、再び読み返せばまた違って見えるかもしれないと、あらためてそう思えました。


こじらせヒライストはなぜ平井和正を語りたがるのか - Name: カナメ No.1489 - 2017/04/15(Sat) 20:04:37
読書家――ことに特定作家のファンが因果なのは、自分の幸福を他者である作家に完全に依存している点につきます。
仕事であれ、家庭であれ、そうは自分の思い通りにはならないものです。ままならないのは何事もみな同じ。それでも自分の努力、働きかけが、より望ましい結果を結ぶ余地はゼロではありません。読書にはその余地がありません。望ましからざる作品に相対したとき、読者にできる選択は、渋々でもその作品を受け入れるか、拒絶するか、そのいずれかしかありません。

ワタシが平井和正を語るのは、それは世間の〇〇好きがそうであるように、平井和正という作家が好きだからです。でも、それだけでは説明のつかないことがある。ほかにも好きな作品の書き手はいます。井上雄彦、福本伸行、真鍋昌平、小林よしのり……でも、彼らの作品を語りたい、語らねばならないという衝動には、不思議と駆られませんでした。

それは不思議でも何でもありませんでした。彼らの作品には、読むだけで充足していたから。
平井和正の作品を読むことで、ワタシは無上の幸福感を味わいました。しかしその一方で、否定しがたい何か満たされない不満やフラストレーションを感じていたことも事実です。そんな負の感情を自ら語ることで心の隙間を埋め、慰謝してきたのでした。
魅力と欠陥がともにあり、単純に充足だけはさせてくれない。いっそ拒絶してしまえば幸せだとわかっていても、そうするには魅力に虜にされ過ぎている。飲めば飲むほどに渇き、喰らえば喰らうほどに飢える。ワタシにとり平井和正の作品とは、そんな厄介なシロモノです。その厄介さが、平井和正を語ることに駆り立ててきたのだと、ようやくわかりました。わざとやっていたとしたら、大したワルですよね。


Re: こじらせヒライストはなぜ平井和正を語りたがるのか - Name: にわかこじらせヒライストの幻魔大戦ジプシー No.1491 - 2017/04/15(Sat) 21:43:32
>否定しがたい何か満たされない不満やフラストレーションを感じていたことも事実です。

Twitterを覗いていて外国の方が平井和正作品について感想を述べられていました。
スパイダーマンについて
https://twitter.com/ZackDavisson/status/851524973613031424
The weird part is more the "psychedelic" vibe and drug plots. It's like ... totally trippy, maaannn ...
奇妙な部分はサイケデリックな雰囲気、辟易させる構想。全体的に頭がクラクラするようだ。ウーン...

新幻魔大戦について
https://twitter.com/FelipeOnodera/status/853152300927406080
Yeah, it's a very complicated story after Chinami time travels back to the Edo period. And then it ends abruptly.
そうだね、千波が江戸時代にタイムトラベルした後は、非常に複雑だ。その上それは不意に終わる。

国も時代も言葉も違う人たちでも同じような感想を抱く。
平井和正の普遍性の一つとして、このようなものがあるのかもしれません。

>魅力と欠陥がともにあり、単純に充足だけはさせてくれない。
彼の紡ぐ物語に期待した人は多かれ少なかれ苦しむのだと思います。
私もこじらせ系ヒライストなのですが、「これなんか変だね。」の次に「やーめた、知ーらない」と言えなかった。
どこか平井和正という人物に尊敬の念や憧れや自分との共通点を見出してしまっていたのだと思います。
私はこの前の新宿5丁目のトークライブに行って、なんかそう納得がいきました。

紙の本でサイボーグ・ブルースが出たら再読してみようと思います。
あと、「その日の午後、砲台山で」は読んだことがないので、Kindleで購入して読んでみようと思います。

気楽に安価で購入して、気楽に読むのが、なんだかんだ言って楽しい読書です。


躁、COOL!〜狼の世界(ウルフランド)≪おかわり≫ - Name: カナメ No.1490 - 2017/04/15(Sat) 21:41:14
前回の『狼の世界(ウルフランド)』評とは別のパートの所感です。

■あいつと私
躁状態がハンパない。愉快で楽しいコメディというよりは、作者の正気を疑ってしまう、そんな作品ですね。
我々アニメ幻魔世代には、角川文庫版『ウルフランド』の印象が強烈でしてね。NONノベルの別モードの生頼画伯も悪くないんですが、やっぱり向日葵淳子は鈴宮和由じゃなきゃって感じなのです。ここで添付の画像をご覧下さい。まあ可愛いですね。抱きしめたくなりますね。セーラー服趣味のいやらしいいやらしい中年男の人には目の毒ですね。ハイ、どうもありがとうございました。
この文庫本の装丁、少なからずウルフガイ読者を増やしたんじゃないかと思います。この本をジャケ買いならぬ表紙買いをして、内容がわからず悔しくしてウルフガイを読み始めたってひとを一人知っています。電子書籍のイラスト増補版がもし出るんなら、こちらはNONノベル版じゃなく、角川文庫版でお願いしたいなと思います。

■『狼のレクイエム』改訂版
電子書籍版に「のりしろ」はありません、あしからず。でも、切り取り線はあります。切り取れないですけど。

■8マン→サイボーグ・ブルース→ウルフガイ
豊田有恒はシナリオ書きに消耗し、一年半にわたり小説が一行も書けなくなって、苦悶のあまり号泣したそうだが、筆者も同様であった。唄いたくても唄えないカナリヤである。この辛さは、小説家でないとわからない。
シナリオ書きは小説家から文筆の詩想を奪ってしまうのですね。漫画『ウルフガイ』の原作は、小説『狼の紋章』〜『狼の怨歌』そのものだったといいますが、それは作家としての矜持だけではなく、こうした経験も経てのことだったんですね。


ここがヘンだよ「幻魔大戦シリーズの登場人物一覧」のWikipedia - Name: 国会図書館の複写カウンターの女の子にこ このおっちゃんは・・・・「キ・チ・ガ・イだ!」と笑われた幻魔大戦ジプシー No.1482 - 2017/04/15(Sat) 00:45:57
Wikipediaを読んでいると、あれ、変だな、そうだったけ?と思うことが私はしばしばあります。
幻魔大戦のWikipediaについて、前から思っている私の素朴な疑問を列挙させて頂きます。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B9%BB%E9%AD%94%E5%A4%A7%E6%88%A6%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%BA%E3%81%AE%E7%99%BB%E5%A0%B4%E4%BA%BA%E7%89%A9%E4%B8%80%E8%A6%A7#.E9.AD.94.E7.8E.8B
>【Rebirth】別世界(マガジン版)の東丈。怒りや恐怖を超能力発動のトリガーとしたために、幻魔と一体化してしまった姿。
3巻で、イワンや斉天大聖もとい丈のドッペルゲンガーや5巻のドク・タイガーがそう解釈できるようなことを言っていますが、そういうことなのでしょうか。


https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B9%BB%E9%AD%94%E5%A4%A7%E6%88%A6%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%BA%E3%81%AE%E7%99%BB%E5%A0%B4%E4%BA%BA%E7%89%A9%E4%B8%80%E8%A6%A7#.E6.9D.89.E6.9D.91.E5.84.AA.E9.87.8C
>杉村優里
>母は杉村由紀、父は霊体の東丈。過去世はお時、クロノス。
>クロノス
>【真】お時、杉村優里の過去世。

お時ってすでにお亡くなりなって杉村優里に転生したという設定でしたでしょうか。仮に杉村優里の過去世がお時だったら、香川千波かお蝶の過去世がクロノスだという話になると思うのですが、それも何か違うんじゃないかなぁと思います。
お時の血統で、クロノスの霊統を得た個体が杉村優里ですよね。平井和正は魂はコピーできないという信念持ってるんですよね。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B9%BB%E9%AD%94%E5%A4%A7%E6%88%A6%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%BA%E3%81%AE%E7%99%BB%E5%A0%B4%E4%BA%BA%E7%89%A9%E4%B8%80%E8%A6%A7#.E3.81.8A.E6.99.82
>【小説】東三千子が見る幼い日の空襲の夢に登場する本当の母、東家の実母とは似ても似つかぬ三千子に極似した容姿を持つ。
野生時代版幻魔大戦7「浄化の時代」このシーンを読んだときは、空襲の夢に登場する本当の母はお時じゃないかとそう思いましたけど、ハルマゲドンの少女に、真相が書かれていますよね。e文庫さん早くKindleの出版お願いします。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B9%BB%E9%AD%94%E5%A4%A7%E6%88%A6%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%BA%E3%81%AE%E7%99%BB%E5%A0%B4%E4%BA%BA%E7%89%A9%E4%B8%80%E8%A6%A7#.E3.82.BD.E3.83.8B.E3.83.BC.E3.83.BB.E3.83.AA.E3.83.B3.E3.82.AF.E3.82.B9
>ソニーの身体はエレベータの鋼板と半ば融合しており、死亡したと推測される。その後超空間の住人となっている。
つーか、なんで死亡したのに、超空間の住人になってんねんっ!

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B9%BB%E9%AD%94%E5%A4%A7%E6%88%A6%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%BA%E3%81%AE%E7%99%BB%E5%A0%B4%E4%BA%BA%E7%89%A9%E4%B8%80%E8%A6%A7#.E5.B9.BB.E9.AD.94
>ザメディ
>【Rebirth】オズボーン准将の体を乗っ取り、ソニー・リンクスやCIAを罠にはめる。別世界の記憶から、ソニー・リンクスに正体を暴かれるも、エネルギーボール内に幽閉することに成功する。

エネルギーボールは角川映画版の場合の話で、Rebirthは少年マガジン/野生時代同様、人間ミートボールなんですよね。

コミック版・新幻魔大戦で「お時の顔が香川千波の顔で、香川千波をお蝶の焼死体のように描いているシーンはチョンボだから修正するべきだ。」と言っておきながら、どうしても気になって、幻魔大戦の単行本化の際に大きく修正されたチョンボの絵を入手してしまいました。
コミック版・新幻魔大戦は、あれはあのままで良いのだと納得できました。一見さんはコミック版ではなく小説版を先に読めば済むだけのことだから。


Re: ここがヘンだよ「幻魔大戦シリーズの登場人物一覧」のWikipedia - Name: カナメ No.1485 - 2017/04/15(Sat) 11:19:21
カッコイイなあ、雑誌初登場のタイガーマン! このときは人物像まで意思疎通ができてなかったんでしょうね。大胆ビキニのベガ※にも増して、貴重なひと(ふた)コマですね。
https://twitter.com/tkaname/status/849606983556620288

お時の顔が香川千波の顔……確かにそうだ。ワタシはそんなこと、考えたこともありませんでした。至極もっともなツッコミです。でも、マンガ的には仕方がないかなと。お時の主体は香川千波であって、その主体の顔が変わってしまうわけにはいかなかったんでしょう。
解釈論で解決を図るなら、千波の魂がお蝶の身体に入ったら、顔つきまで千波っぽくなったというのは……ムリ?


Re: ここがヘンだよ「幻魔大戦シリーズの登場人物一覧」のWikipedia - Name: 国会図書館の複写カウンターの女の子にこ このおっちゃんは・・・・「キ・チ・ガ・イだ!」と笑われた幻魔大戦ジプシー No.1486 - 2017/04/15(Sat) 11:59:06
なんか大胆ビキニのベガって、我々がイメージしているイカツイサイボーグという感じではないですね。
鉄腕アトムも半裸ですけど、なんか半裸ベガって密かに女をナンパしてヤッテしまっているようなエロさがありますね。。。

>マンガ的には仕方がないかなと。お時の主体は香川千波であって、その主体の顔が変わってしまうわけにはいかなかったんでしょう。
単に打ち合わせ不足だと思いますよ。
だって、エド1999年?Cのラストから3つ目のページでお時が短髪でなく長髪になって黒い影で塗りつぶされています。
連載が進んでいく内に石森章太郎は気付いたんですよ。最初の明暦の大火のシーンの「私」という単語の意味が、お蝶が香川千波と同化していく過程で、香川千波だったりお蝶だったりお時だったりということを文脈で微妙に使い分けているんだって。
私は、コミック版新幻魔大戦?A(徳間アニメージュコミック)→小説版新幻魔大戦(リム出版)
という順番で読んで、真幻魔大戦にも目を通して、いろいろと想像していたんですよ。明暦の大火のシーンのお時はどんな姿をしているのだろうか?って。もしかしたら、この時点で平井和正は、ムーンライト=黒野千波の構想ができていたのではないか?って。
で、苦労して、わざわざ吹田の籠目舎まで足運んで高い金出して買った?@巻のシーンを読んでとてもがっかりしました。

できれば、幻魔大戦Rebirthでも、この辺のダイジェストをやって書き直してほしいなぁって、私は思っています。

そうじゃないと、一見の読者が、あのシーンで第一次幻魔大戦と第二次幻魔大戦の奥底にあるお時の使命と宿命という微妙なベクトルを味わえなくて、勿体ないと思います。


Re: ここがヘンだよ「幻魔大戦シリーズの登場人物一覧」のWikipedia - Name: カナメ No.1487 - 2017/04/15(Sat) 13:16:04
マジレスしますと、マンガの絵は必ずしも正確なビジュアルを表現しているわけではないとワタシは考えるものです。
ルナ姫とソニー・リンクス(サンボ)がまさか日本語で会話をしているわけはありません。ベガとアリエータに至っては、地球上の言語ですらない。それをそのまま正確に描かれても困るわけで、日本人向けには日本語で吹き出しを書くことになる。絵もしかりです。極論すれば、読者に伝えるための記号として、「翻訳」されているのです。
本当はお時の外見はお蝶のそれと同じのはずです。でも、ストレートにそう描いてしまったら、新幻魔大戦の主人公の顔が途中から変わってしまう。やっぱりそれはマズいわけで、香川千波が日本髪を結ったのがお時の表現になるのは、当然の選択だとワタシは思います。髪が長い――江戸時代から跳んできたのですから当然ですが――のは明らかにお蝶の属性ですね。


Re: ここがヘンだよ「幻魔大戦シリーズの登場人物一覧」のWikipedia - Name: 国会図書館の複写カウンターの女の子にこ このおっちゃんは・・・・「キ・チ・ガ・イだ!」と笑われた幻魔大戦ジプシー No.1488 - 2017/04/15(Sat) 13:42:29
まあ、どこまで作り話の嘘とか間違い・矛盾を許容できるかは人とか時代に依存すると思います。
ゆでたまごのキン肉マンなんてのは、突っ込みどころ満載ですからね。明らかに間違いだとわかってても修正しないし。
あまりこの辺慎重になると、単行本化が遅れる(需要があるのに供給できない)ので、逆効果なんでしょうね。
タマフルでみなもと太郎が言っていましたが、ジャングル大帝の最終巻が中々でなかったのは手塚治虫自身が話の矛盾に気付いて、それを無理やり取り繕おうとしたのが理由らしいです。

大事なのは、その時代時代の嗜好や勢いに乗り、読もうと思ってくれる人にできるだけ読者になってもらうことなのかもしれません。

スターウォーズはよく改訂してますけど、なんだかんだ言って、金持ってるからなんでしょうね。

大河ものって、下手に手を出しちゃいけない。


天使時代前夜の死と再生〜狼の世界(ウルフランド)【読後正式版】 - Name: カナメ No.1483 - 2017/04/15(Sat) 10:35:32
平井和正が作家的変革期にスラプスティックな作品を書くことはわりと知られています。
『狼の紋章』でいわゆる「狼の時代」が始まる前に書いたのが『超革命的中学生集団』でしたし、ここでしばしば云っている「生頼範義期」から「泉谷あゆみ期」への端境に書かれたのが『女神變生』でした。そして『人狼白書』で「天使の時代」の幕開けとともに書かれたのが『狼の世界(ウルフランド)』です。
ところで「人狼白書 闇のストレンジャー」がGOROに連載されたのと、「ウルフランド」が奇想天外に連載されたのって、時期的にはどちらも76年でほぼ重なってるんですよね。

 おれは車の窓を開け、上半身を乗り出して、タイトルをのぞいた。
「“ウルフランド消滅”なんて書いてありやがる。掲載誌も“GORO”じゃなくて“奇想天外”だ。われわれは“闇のストレンジャー”に登場中だったんだからな。とうとう作者の奴、発狂したかな? まさか、締切が重なってるんで、間違えたんじゃあるまいと思うが」


「ウルフランド消滅」でブルSSSに同乗するマイク・ブローニングに犬神明がそう語りかけているのは、そういうことなんですね。

参考 ヒライストライブラリー [掲載雑誌目録]
http://hiraist.fan.coocan.jp/mokuroku/mag/mag_ki.html
http://hiraist.fan.coocan.jp/mokuroku/mag/mag_xx.html

「あっはっは。まかしといてくれ。そのほうが読者も喜ぶ。なあ、マイクちゃん、ウルフガイが交替したら、よろしく頼むよ。こっちの犬神明センセイは、どうも最近陰々滅々ムードでかったるくなってるからな。このへんで気分を変えて、新鮮に溌剌とやろうぜ」

「いずれ先輩が引退したら、後を務めることになるかもしれませんよ」
「まだまだ、こんなひ弱な若い連中には負けませんよ。現役バリパリの狼男ですからな」
「ははは。しかし最近はだいぶくたびれて、陰々滅々だという評判だけどな」


神明、“悪徳学園”犬神明、双方から「陰々滅々」と云われるアダルト犬神明。
この辺があの方の面白いというか凄いところで、神と信仰の世界にダイブしながらも、まるでバンジージャンプのように自分の足元にしっかりとロープを繋ぎ留めている。宗教にハマって、人が変わってしまうという話は、よく聞くところです。平井和正も「大きな心境の変化を経験していた」「大量のタバコ、酒、睡眠剤とあっさり縁が切れてしまった」「人格円満さによって友人知己たちを驚かせているようなのだ」(『人狼天使 第I部』「あとがき」)と語っており、そうだったのでしょう。けれども、そういう自分を客観視し、茶化す冗談っ気も失わずにいる。そういう人だから、作家に戻ってこれたんでしょう。そして、リアル教団とは関係を断ち、小説という作家業を通じて、真の救世主を探す旅を始める。

それにしても、ラノベ(ライトノベル)という言葉も概念もない時代に、挿絵と不可分の小説「超革中」を書き、新井素子のデビュー(77年)に先んじて、登場人物たちが楽屋話的に作者について語り合うセルフパロディを書く。なんだかんだ云って、やっぱりある種の天才だと云わざるを得ません。「『狼のレクイエム』改訂版」の“のりしろ”とかね。頭おかしいですよ(笑)。この頭のおかしさは、魅力でもあるし、欠点でもある。平井和正という作家に対して思う、凄ぇなこのひとはという部分と、なんでこんなことしちゃうかなという部分、それらはきっと一枚のコインの裏表なんだと思います。

最後に蛇足を。この物語ありエッセイありの書物の最後のパートである「平井和正氏・急逝・追悼座談会」、座談会と銘打たれていながら、座談はおこなわれません。司会がひとり平井和正氏「急逝」の事情を解説し、「紙数が尽きました」と云って終了してしまいます。
その「急逝」の事情というのが、ウルフランドの連載最終回用に用意していた登場人物座談会を同じ奇想天外で横田順彌氏に先を越されてしまって、それでショック死してしまった……という巷間の噂は俗説妄説であって、真相は別にあったというのですが。
よろしいですか、みなさん。書く前、構想段階で先を越されたのじゃありません、書いたあとなんですよ。つまり、発表されずにお蔵入りした、幻の原稿があったのですよ!
そして、その幻の「ウルフガイ登場人物の座談会」が、電子書籍版に《特別付録》として収録されているのですよ! 電子書籍なんて興味ねーよ、という方も、ちょっぴり食指が動いたんじゃありませんか?

「おれは、お宅の年頃には派手にやってたぞ。学生トップ屋なんていわれたもんだ。梶山李之のトップ屋時代の話さ。そのころ蛇姫さまの郷子とはじめて逢ったんだ」
蛇足その二。さり気に『若き狼の肖像』への伏線を張ってますね。神がかり後に書いた神がかりでない作品という点で、ウルフランド、『死霊狩り』2・3(「このままでは、われわれもゾンビー島で立往生だ」by 林石隆)と並んで「やればできる」ことを証明した作品ですね。

「あそこに“幻魔大戦”のグループがいる。あの連中はみな超能力者だ。なんとかラチをあけるかもしれん」
蛇足その三。初読のときには、ずいぶんと扱いが小さいなあ、と思ったものです。この頃はまだ、第二次・小説幻魔大戦は書かれてなかったですからね。読者として、まだまだビギナーでした。

Ending. 特撮 人狼天使
それでは大槻ケンヂ率いるロックバンドの、このナンバーを聴きながらお別れです。それでは次回、『人狼天使』でお会いしましょう。



Re: 天使時代前夜の死と再生〜狼の世界(ウルフランド)【読後正式版】 - Name: カナメ No.1484 - 2017/04/15(Sat) 10:36:26
仕事が一段落してテキストが書けるようになりました。そんな事情で間が空いてしまいましたが、ちゃんと読み通したあとの正式版です。といっても、こちらは引用部分とかをちょこっと変えただけですけどね。ほかのパートについての所感は、稿をあらためたいと思います。

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