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記事No.1483に関するスレッドです


天使時代前夜の死と再生〜狼の世界(ウルフランド)【読後正式版】 - Name: カナメ No.1483 - 2017/04/15(Sat) 10:35:32
平井和正が作家的変革期にスラプスティックな作品を書くことはわりと知られています。
『狼の紋章』でいわゆる「狼の時代」が始まる前に書いたのが『超革命的中学生集団』でしたし、ここでしばしば云っている「生頼範義期」から「泉谷あゆみ期」への端境に書かれたのが『女神變生』でした。そして『人狼白書』で「天使の時代」の幕開けとともに書かれたのが『狼の世界(ウルフランド)』です。
ところで「人狼白書 闇のストレンジャー」がGOROに連載されたのと、「ウルフランド」が奇想天外に連載されたのって、時期的にはどちらも76年でほぼ重なってるんですよね。

 おれは車の窓を開け、上半身を乗り出して、タイトルをのぞいた。
「“ウルフランド消滅”なんて書いてありやがる。掲載誌も“GORO”じゃなくて“奇想天外”だ。われわれは“闇のストレンジャー”に登場中だったんだからな。とうとう作者の奴、発狂したかな? まさか、締切が重なってるんで、間違えたんじゃあるまいと思うが」


「ウルフランド消滅」でブルSSSに同乗するマイク・ブローニングに犬神明がそう語りかけているのは、そういうことなんですね。

参考 ヒライストライブラリー [掲載雑誌目録]
http://hiraist.fan.coocan.jp/mokuroku/mag/mag_ki.html
http://hiraist.fan.coocan.jp/mokuroku/mag/mag_xx.html

「あっはっは。まかしといてくれ。そのほうが読者も喜ぶ。なあ、マイクちゃん、ウルフガイが交替したら、よろしく頼むよ。こっちの犬神明センセイは、どうも最近陰々滅々ムードでかったるくなってるからな。このへんで気分を変えて、新鮮に溌剌とやろうぜ」

「いずれ先輩が引退したら、後を務めることになるかもしれませんよ」
「まだまだ、こんなひ弱な若い連中には負けませんよ。現役バリパリの狼男ですからな」
「ははは。しかし最近はだいぶくたびれて、陰々滅々だという評判だけどな」


神明、“悪徳学園”犬神明、双方から「陰々滅々」と云われるアダルト犬神明。
この辺があの方の面白いというか凄いところで、神と信仰の世界にダイブしながらも、まるでバンジージャンプのように自分の足元にしっかりとロープを繋ぎ留めている。宗教にハマって、人が変わってしまうという話は、よく聞くところです。平井和正も「大きな心境の変化を経験していた」「大量のタバコ、酒、睡眠剤とあっさり縁が切れてしまった」「人格円満さによって友人知己たちを驚かせているようなのだ」(『人狼天使 第I部』「あとがき」)と語っており、そうだったのでしょう。けれども、そういう自分を客観視し、茶化す冗談っ気も失わずにいる。そういう人だから、作家に戻ってこれたんでしょう。そして、リアル教団とは関係を断ち、小説という作家業を通じて、真の救世主を探す旅を始める。

それにしても、ラノベ(ライトノベル)という言葉も概念もない時代に、挿絵と不可分の小説「超革中」を書き、新井素子のデビュー(77年)に先んじて、登場人物たちが楽屋話的に作者について語り合うセルフパロディを書く。なんだかんだ云って、やっぱりある種の天才だと云わざるを得ません。「『狼のレクイエム』改訂版」の“のりしろ”とかね。頭おかしいですよ(笑)。この頭のおかしさは、魅力でもあるし、欠点でもある。平井和正という作家に対して思う、凄ぇなこのひとはという部分と、なんでこんなことしちゃうかなという部分、それらはきっと一枚のコインの裏表なんだと思います。

最後に蛇足を。この物語ありエッセイありの書物の最後のパートである「平井和正氏・急逝・追悼座談会」、座談会と銘打たれていながら、座談はおこなわれません。司会がひとり平井和正氏「急逝」の事情を解説し、「紙数が尽きました」と云って終了してしまいます。
その「急逝」の事情というのが、ウルフランドの連載最終回用に用意していた登場人物座談会を同じ奇想天外で横田順彌氏に先を越されてしまって、それでショック死してしまった……という巷間の噂は俗説妄説であって、真相は別にあったというのですが。
よろしいですか、みなさん。書く前、構想段階で先を越されたのじゃありません、書いたあとなんですよ。つまり、発表されずにお蔵入りした、幻の原稿があったのですよ!
そして、その幻の「ウルフガイ登場人物の座談会」が、電子書籍版に《特別付録》として収録されているのですよ! 電子書籍なんて興味ねーよ、という方も、ちょっぴり食指が動いたんじゃありませんか?

「おれは、お宅の年頃には派手にやってたぞ。学生トップ屋なんていわれたもんだ。梶山李之のトップ屋時代の話さ。そのころ蛇姫さまの郷子とはじめて逢ったんだ」
蛇足その二。さり気に『若き狼の肖像』への伏線を張ってますね。神がかり後に書いた神がかりでない作品という点で、ウルフランド、『死霊狩り』2・3(「このままでは、われわれもゾンビー島で立往生だ」by 林石隆)と並んで「やればできる」ことを証明した作品ですね。

「あそこに“幻魔大戦”のグループがいる。あの連中はみな超能力者だ。なんとかラチをあけるかもしれん」
蛇足その三。初読のときには、ずいぶんと扱いが小さいなあ、と思ったものです。この頃はまだ、第二次・小説幻魔大戦は書かれてなかったですからね。読者として、まだまだビギナーでした。

Ending. 特撮 人狼天使
それでは大槻ケンヂ率いるロックバンドの、このナンバーを聴きながらお別れです。それでは次回、『人狼天使』でお会いしましょう。



Re: 天使時代前夜の死と再生〜狼の世界(ウルフランド)【読後正式版】 - Name: カナメ No.1484 - 2017/04/15(Sat) 10:36:26
仕事が一段落してテキストが書けるようになりました。そんな事情で間が空いてしまいましたが、ちゃんと読み通したあとの正式版です。といっても、こちらは引用部分とかをちょこっと変えただけですけどね。ほかのパートについての所感は、稿をあらためたいと思います。


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