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記事No.1475に関するスレッドです


女たちの『リオの狼男』 - Name: カナメ No.1475 - 2017/02/26(Sun) 10:47:52
ここで云う『リオの狼男』とは、ルナテックの電子書籍の書名です。祥伝社ノン・ノベルの『魔境の狼男』といったほうが通りはいいでしょう。でも、こちらのタイトルのほうが好きなんですよね。ルナテック電子書籍のアダルトウルフガイは、シリーズ構成も角川文庫版に準拠にしていて、まさにいいとこ取り。決定版と云えるでしょう。角川文庫版は構成はいいんですが、タイトルが、ね。
… I have a 狼は泣かず、
… I have a 人狼白書、
… あン、
… ウルフガイ 不死の血脈。
… なんでやねん!!! というね。

『リオの狼男』はシリーズでも随一のゲスト美女たちが乱舞する物語です。アダルトウルフガイ再読ロードの感想テキスト、今回はそんなボンドガールならぬ魅惑のウルフガールたちに焦点をあてて、振り返ってみようと思います。

■《一人目》 エリカ・フジタ
日系二世。三星商事の現地法人に勤務し、犬神明の通訳を務める。だが、ライオン・ヘッドの部下で都市ゲリラ人民解放戦線の女兵士という裏の顔を持つ。無類に愛くるしく、明は彼女を子猫や仔犬に喩えている。彼女の寄せる好意を明はわかっていたが、その想いに応えることはなかった。成熟した女性が好みということもあろうが、それよりも一途な愛に縛られることを厭うたがゆえだ。だが、そのことが彼女に悲惨な運命を招くことになる。生ける神、犬神明は悪人も善人も区別なく、近寄る者に悲運をもたらす。最後は可哀想でしたね。
初読時にはわからない、すべての筋書きを知ったうえでエリカのこの言葉を見ると、単に女の子らしく愛する男の身を案じているだけではない、自分の敵に回ろうとしている男をなんとか引き留めようとする必死な想いがわかってじわじわきます。
「ロボ、あなたはあたしのアミーゴ、死なないで。あたしのいうことをきいてよ。あたしを信じてよ、ロボったら……」

■《二人目》 ブランカ
リオの顔役フォルツナトの妻、ライオン・ヘッドの前妻でもあった。シリーズでも数少ない破滅しなかった女。エリカにはつれなかったのに、彼女とはあっさり“アダルト”な関係になってしまう。呪術師(マクンベーロ)でもある彼女には、明を待つ死地が視えていた。それでも彼女は数日間の休息の終わりに、すがって止めるのではなく、戦士を戦場に送り出した。彼女もまたアダルト。このあたり、前述のエリカとは対比的だ。互いの母国語で交わす別れの言葉が美しい。
「もうお行きなさい。サヨナラ、ロボ」
「アディオス、ブランカ」


■《番外》 石崎郷子
ゲストではないが、この並びに加えないわけにはいかない。ライオン・ヘッドのつかの間の妻。犬神明は親友の夫を手にかけたことになる。まさに怪物に怪物をぶつけた陰謀の絵図を知り、明は復讐の鬼となる。犬神明の月に代わっておしおきは怖ろしい。彼女を娶ったそのことだけで、すでにライオン・ヘッドの命運は尽きていたというのに。いや、やはりそれもこれも含めて、犬神明と同じ、生ける神である彼女がもたらす禍いなのだろう。登場はわずかだが、ニヒルで物憂げな存在感は抜群。
「むだなことだわ。いっそうむごたらしいことがあなたに起こるだけよ、ウルフ。この愚かしい人間社会では、あたしやウルフはアウトサイダーなんだわ」

■《三人目》 バルバラ
エリカの妹。同じ都市ゲリラのメンバー。エリカ殺しの犯人と誤解し、明を烈しく憎み復讐の炎を燃やす。だが、収容所の同じ牢獄で、明のうわ言を聞き、真実を知る。彼女は明の重荷になるまいと、猛毒蛇スルククに自らを咬ませ死を選ぶ。実はワタシの一番印象に残っているのが、このひとだったりします。のちの大滝志乃と通じるところがありますが、彼女の最期は志乃よりもずっと幸せだったようです。
「あなたのお喋りを聞いていると、身体が温かくなってくる……きっとあなたをよく知れば、好きにならずにはいられないわね。こんなに勇猛なのに、こんなにも優しいんだもの」

■《選外》 マリア・スコッティ
ブラジル軍保安部での階級は少佐、だが正体はKGBのエージェント。明の収容所脱出を手びきする。犬神明の評によれば、ちょっぴり美人で年増美人。選にはもれたが、後述するドナとの関係と、明の彼女にあびせた科白が秀逸につき、ここに記しておく。
「マリア・スコッティ少佐よ」「ティッシュ・ペーパーなんかに用はない」

■《四人目》 ドナ・フェレイラ
マリアの配下。明の緑の魔境(マット・グロッソ)行きに同行する。人間的にいいところはまるでなし、冷血な女殺し屋。なおかつ明にとっては、足手まといでもある。だが、明はそんな彼女を見捨てて置き去りにできない。そんなやさしさにつけ込む、悪い意味で女らしい狡さも持ち合わせている。
「死ぬとわかりきっているのに、かよわい女をジャングルに放り出すの?」「それなら、あたしを背負っていけばいいわ」「あたしは女だし、あんたみたいにタフじゃないのよ。へとへとに疲れてるし、つい我慢しきれなくなったのよ。それくらいあんただってわかってるでしょ」
ここまで図々しいと、かえって清々しいというか、妙な可愛げすら覚えてしまう。犬神明は一人称のト書きでこう云っている。――ドナ・フェレイラ、おれの遭遇したもっとも手強い厄病神だった。 このニュアンスはミソで、心底憎悪する相手なら、こんな云い方は決してしない。その微妙な心情はこちらにも伝わって、彼女はなんだか憎めない。平井和正のこういうキャラの造形、描き方って本当に名手だなと思います。
「せめて、あんたぐらい生きててほしかったよ、ドナ」「たのむから、まだ生きててくれ!」
ウルフのその祈り、その叫び、ワタシも同じ気持ちです。生きてはいないとわかっていても。エリカ、バルバラ姉妹とともに、ご冥福をお祈りします。


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