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記事No.1440に関するスレッドです


悪夢のかたちの雑感 <No.678 - 2003/12/31(Wed) 15:01 掲載分を再アップ> - Name: カナメ No.1440 - 2017/01/28(Sat) 22:37:36
ゲッ。「夢の中の女」がなーい!
ストーリーのディティールはおろか、話の大筋すら忘れ去ってしまい、手元には本はなく、e文庫化もされておらず、せっかくの『悪夢のかたち』談義にコメントもできず、里帰りしたこの機会に、読み比べようと思ってたのに〜。
いったい何処へやってしまったんだろう。文庫本はまとめて保管してあるので、よそに紛れ込んでいるとは考えにくい。蔵書の大量処分のどさぐさに、いっしょに放出してしまったのだろうか。パラフィン紙に包まれた「夢の中の女」……。あれを古本屋で見つけたときは、嬉しかったんだがなあ〜、とほほ。
だが、しかーし。天はワタシを見捨ててはいなかった。十数年前、ワタシは(平井和正)ファンサークルの知人にこの本を借り、そしてしっかり宇宙塵版『悪夢のかたち』をコピーさせてもらったのだった。そしてそれは、ちゃーんと保管されており、見つけることができたのでした。

双方を読み比べて、ひとこと申し上げるとすれば、これはもう、どちらも読むべし!
どちらかが一方的に優れているとは思いません。角川文庫「悪夢のかたち」の表題作は、章題を付け加えたり、時間経過を明記したりして、より解りやすく、洗練されています。たとえば宇宙塵版の、こんな科白は要らないですね。

「精神病理学のことはよく知りませんけれども、性格の分裂とか、二重人格というようなことだと思います。(以下、角川文庫版に同じ)」

ところが、いかんせん、角川文庫版は削りすぎなのですね。主人公・中田浩の、妻・ケイに対する愛情の深さについて、宇宙塵版と読み比べると描写不足、説明不足の感を否めません。
ケイへの愛情に感情移入してこそ、ラストの絶望感は、生々しい迫真性を帯びる。異星生物に身体を乗っ取られ、心にもない妻への裏切りを行い、中田の意識はそれを「悪夢」として認識しているが、実はそれは紛れもない現実そのものだったという――。

しかし、なんですね。平井の作品はSFではない、というフレーズは、主に「幻魔大戦」の頃から言われだした言葉だと思いますが、この頃すでにSFのスタンダードから逸脱してますよねえ。SF的ガヂェットは道具立てでしかなく、描いているのは古風な女の美しさであり、強い絆で結ばれながら、理不尽な運命に引き裂かれる悲恋である。同時にそれは、それでもなお引き裂かれることはなかった、強い強い絆の物語でもある。

冒頭のシーンが印象的です。「異星の不定形生物」って、平井作品にはお馴染みなんですが、それが産院の赤ん坊に取りつくところが、スリリングなんですよ。新生児室には居眠りをした看護婦がいて、そして、その作業には1時間はかかる。成功するか否かは、彼女の居眠り次第。
その賭けへの緊張感。不安、焦り。そして、雌雄にそれぞれ取りつくために、自らを分裂させる痛み。思わず不定形生物に感情移入し、応援してしまいました。
不定形生物の内面を描写する作家も、珍しいんじゃないでしょうか。しかし、この不定形生物の「人間味」を描いているからこそ、ケイに別れを告げる中田(の身体を乗っ取った不定形生物)が、「昔はたのしかった」と口にすることに説得力を帯びる。もっと、ひどい言葉を浴びせてもよかったはずです。
機械的に、求められた言葉を口にしただけかもしれません。でもワタシは、ここに不定形生物の「情」を感じてしまいます。片割れと引き裂かれる辛さを不定形生物は知っていたのではないか。知っていたって、不思議はないのですから。
といっては、深読みが過ぎるでしょうか。

P.S.
なんか今年は、平井和正とその周辺事項に、偏ってしゃべり過ぎました。来年は作品の話をしたいですね。「アブダクション」の話題もご遠慮なく。それでは、よいお年を。またすぐ、お目にかかります(笑)。


Re: 悪夢のかたちの雑感 <No.678 - 2003/12/31(Wed) 15:01 掲載分を再アップ> - Name: カナメ No.1441 - 2017/01/28(Sat) 22:39:04
この掲示板は今は年会費を払っていて、No.679以降の投稿は保存されるようになっています。この投稿は有料版への移行のタイミングで、ギリギリ取りこぼしてしまったんですよね。おかけでせっかくの、あめんほてっぷさん、奈津さんのコメントがやや意味不明になってしまっているという状態でした。web.archive.orgから発掘できたので、再アップさせていただきました。


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