 | * 彩と鬼田君(1) * 武井信夫 作
−西暦2026年1月9日(金) 文化厚労賞受賞作品− −西暦2026年1月9日(金) 文化大臣賞受賞作品− −西暦2026年1月20日(火) 文部文学賞受賞作品− −西暦2026年1月20日(火) 文部大臣賞受賞作品− −西暦2026年1月20日(火) 旭日殊勲賞受賞作品−
「 彩、給食は残さず食べなさい 」
中学二年、十三歳の中井彩は母親に背中からそう言われ、 自宅である団地の四階から学校へと向かう。
彩は納豆が苦手だったが今日の給食の納豆は食べようと 決心する。
学校の生徒たちがだんだんと増えて合流してくる。 彩は嫌だなと思う。ひとりきりならいい、と思った。
彩は人の心が読めた。 若松という同じクラスの男子が後ろから近付いてきたのがわかる。
若松の心を読んでみた。 彩の体を見て欲情していた。
<< 山へキャンプへ誘いセックスする >>
彩は175センチの長身と完璧な美貌を備えていた。 髪は腰のあたりまでさげ、黒髪だった。 体は薄い。セーラー服の胸のふくらみは可愛らしく、清潔感に溢れている。
髪の長さが なぜ教育指導に引っかからないのだろうかと思う人間もいた。
若松の情欲が強すぎたので心を操作する。 若松はよくわからなくなって彩の思うとおりに歩き、通り過ぎて彩の前方を歩き去っていく。
彩は母からこの技を教わった。
父は普通の人だったが、理解があり、優しいだけの人だった
校門まで来た彩は男の監視教師をループ操作し風貌を胡麻化す。 彩だけの髪の長さについて心を触れさせないのである。
彩は自分がエスパーの中でも相当な手練れで強力であり、自分に敵う存在などいないと信じていた。
いつも通り教師をループ操作して術にかけながら教室へとむかう。
最近、気になる男の子がいる。
同じクラスにエスパーらしき存在を見つけたのである。 その男の子は彩の席の右ななめ前方に座っている。 そのまま前は黒板である。
不思議な男の子であった。 目が白く輝き、心地の良いサイキカルな波動を感じた。 だが、その男の子は自分自身の力について全く気が付いていないのである。
彩は、これはもしかするとサイコキネシス( 念動力 )なのではと期待する一方で、自分より強いのではないか、不安や好奇心が入り混じった気持ちになった。
もしかしたらそういう体質なだけで超能力などないのかもしれない…。 でも、こんな人が何もないわけがない。
彩は研究を続けた。 記憶を探る。 家庭環境は普通であり、その男の子の両親に何かある様子はなかった。
そして彩はその男の子の優しい心に深く触れるうちに恋をした。 精神感応がもたらすその恋の強さは究極とも言えた。
彩たちの席六人で長方形に机を並べ給食を食べる。 食べ終わったらジャンケンで食器の片付けの人を決める。
彩はそのジャンケンで負けたことがない。 恋をした男の子は鬼田哲郎と言って、普通にジャンケンで負けることもあったので、彩と哲郎以外はチョキが出せないように心理誘導して哲郎にはパーを出させて勝たせた。
そうしているうちに哲郎はパーを出せば最後まで勝てることに気が付き、食器を片づけたりしなくなった。
席替えの時期がやってきた。 彩は教師を操作して哲郎を隣の席にする。
そして研究の成果を出す時がやってきた。もし哲郎の力がサイコキネシスならばと狙いをつけたのである。 「 哲郎君。意識を窓の外へ向けて集中してくれない? 」 「 集中って? 」 「 うんと念じるの。そう、それでいいわ 」 彩は哲郎と精神感応した状態で二階にある教室から節のある蛇のようなイメージの力を地面へと集中して誘導してぶつけた。
真っ白な稲妻が地面へとぶつかり、音はせずに教室が雷の落ちた時のような暗転をした。 授業中の教室の教師と生徒、学校中がざわめいたのを彩は感じ取った。
******************************
哲郎は日曜日に家にいた。 彩とは割と距離の離れた団地の2階である。
勉強が手につかずに自分の4畳半の部屋でテレビゲームで遊んでいる。 母親と父親も居間でテレビゲームをしている。
哲郎は頭が痛くなってくる。 びっくりして居間へ行き、痙攣しながら気を失う。
******************************
哲郎は目が覚めると白っぽい部屋で頭に何かつけられていた。
手で触るとベチャベチャと粘土のようなものでつけられたコードが伸びていた。 コードは機械に取り付けられていて、気味が悪かった。
母と父が離れたところにいて、医者二人が機械をみている。
親の話によると体に異常がなく村木病院という国立ではない個人の大型精神病院の脳神経内科に運ばれたそうだ。
今後しばらく学校を早引けして帰りに毎日通うようにと指示が親に出た。
通うたびに、医者から薬を飲まされたり注射を打たれたりして気が遠くなったり覚めたりで哲郎には訳が分からない。
哲郎は自分の眼が白く光り輝くのを人から言われて知っていたし、何かそれが消されるのではないかと不安だった。
脳波が異常だとか、眼はいつから白く光るのかとかしつこく聞かれて困ってしまった。
青木という医師長は哲郎のことに対して執着していた。
哲郎が超能力者ではないのかと興味を持ち、毎日通うようにと重度の病気の疑いを哲郎に言い聞かせ脅かして毎日通わせ続けた。
*************************
彩は今日、哲郎に社会の教科書を持ってこさせるのを忘れさせた。
哲郎は彩に対し勇気を出して教科書を見せてくれと言った。
哲郎は机を寄せてくっつける。
彩は白い陶器のような手でゆっくりと自分の教科書を哲郎に半分差し出す。
開かれた厚い教科書が重みで閉じそうになったのを哲郎が右手で防いで広げる。
手をどけるとまた閉じてしまうので哲郎はそのまま手を置き続けた。
すると、彩が哲郎の右手の上に左の手のひらをのせた。
少し硬い陶器の感触であった。
そして彩が力を込めてぎゅっぎゅっと押してきた。 精神感応のできる彩にしてみればセックス以上の愛情表現である。
オナニーをして射精することをおぼえたばかりの哲郎であるが、それ以上の幸福感だった。 緊張と幸福感と恥じらいの感覚に襲われて哲郎は痺れて動けなくなった。
彩のほうに顔を向けられずに教科書の文字だけ目で追い続けた。 なにしろ中井彩は鬼田哲郎にとって高嶺の花である。
なぜか静寂な教室であった。
次の日もまた次の日もやはり何かしらの教科書を持ってくるのを忘れてしまうのである。
そのたびにこれを繰り返し、恋愛に鈍い哲郎でもまさかと思いはじめ、一体どういう意味なのであろうと、彩の顔を哲郎は見た。
彩は上機嫌であり笑顔であった。 茶色い陶器のような目を確認してから更に緊張して顔をそらした。 彩は( なんで何も言わないの? )とは思ったが、哲郎との仲は絶対に維持しようと決心していたのだ。 哲郎のサイコキネシスを最大限に引き出すのには二人の恋愛感情が大事だからだ。 不仲では精神感応などしたくない。
彩は給食を残さない。 自分より背の低い哲郎にそれを見せて感化させるなどの面倒見ぶりだ。
哲郎に変化が生じた。 彩はすでに知っていたことだが、哲郎は学校を早引けして精神病院へ通っていたのである。
彩は医学にはまだ疎く、傍観し見過ごしていたのだが、やっと決心した。 「 鬼田君、病院通ってるんだって?昨日も早引きしたでしょう。今日も行くの? 」
哲郎「 うん 」
************************
夕方、西日の差しているなか、中井彩はタクシーに乗っていた。
私立病院にしてはずいぶん大きい建物が見えてきて大勢の入院患者を収容できそうなものだった。
タクシーを降り、午後は休診なのか彩ひとりだけであった。
強い西日の差す中、背中から光を受けて彩はゆっくりと歩いて受付に向かう。
両手を前に下げて行儀よく鞄を持つ光景は非常に情緒的な光と影のコントラストで際立った。
彩は眼鏡をかけた受付の中年の女性に声をかけた。
彩「 鬼田君のクラスメートです 」
中年女性「 鬼田君の? どうかしましたか 」
彩「 あなたたち鬼田哲郎君になにをしてるの? 」
のぞき込んだ長身の彩の顔を西日が薄暗くしていて、彩は不敵な表情をしていた。相まってやや壮絶だ。
中年女性「 ……、 あなたのお名前は? 」
「 中井 彩 」
明るく快活に不敵な表情ではっきりとした大きい声でそう名乗ると、受付の横の診察室の鉄製のドアが開いて二名の男の看護師が出てきた。
受付の中年女性まで出てきて三人で彩を取り囲む。
三人「 帰りなさい 」
***************************
意識操作で中年女を受付に戻らせた彩は、男性看護師二人を同じく意識操作で縦に並ばせ一番後ろに立ち、三人で歩いた。
道案内をさせるのである。
途中必要がないので男性看護師を一人外して入り組んだ複雑な迷路を進んでいく。
そのうち脳神経内科の文字と道標のラインに踏み当たった。
ほかの看護師に棒立ちになるようにループ操作をかけながら歩く。
彩は行儀よく鞄を両手で前に下げ歩き進んだ。
前を歩かせていた男性看護師が重い鉄扉を開いた。
鬼田哲郎がいた。ベッドに寝かされている。
頭には半球形の形をしたヘルメット状の被り物がかぶせられている。
その半球形からはハーネスが取り付けられていて、機械装置に伸びて取り付けられている。
傍には水の入った大きなコップと封の切られた薬の袋がいくつか散らばっている。
そして女性看護師が鬼田哲郎の左腕に注射をしようとしている。
奥にはカルテを持った、眼鏡をかけたしもぶくれで白い顔の医者が入口に立った彩を見ている。
彩は強い声で 「 何をしてるんですか? 」 と、室内に向かって言った。
しもぶくれの医者が驚いた様子で 「 君は? 」 彩の道案内と鉄扉の開錠とドアを開いて抑えているホテルマンのごとき男の看護師に腕を伸ばして指を差し、 「 なぜ部外者を通した!? 」と怒鳴った。
ホテルマンのドアボーイの意識が戻り始めた。まだ呆けた顔だ。 「 ……、え? 」 顔をしもぶくれに向けてぶつりと言う。
彩が鞄を床に落とし、哲郎に駆け寄り、半球形を両手で持ち上げて取り払った。
しもぶくれが言う。 「 こ…、この子は風邪気味で 」
彩はこの青木という医師長の頭の中に風邪薬などないと読み取った。 毒だらけだ。デポ剤まである。
「 風邪じゃあないわね。その薬 」 彩は両膝を床につき哲郎の頭を両手と胸で抱えてかばいながら言う。 「 目を覚まして鬼田君 」 彩は哲郎に気付けの力を送る。 彩の胸の中で目を覚ました哲郎。 哲郎は彩の背中に回りしがみついてかばわれながら意識を回復しだし、自力で立てるようになるのを待った。
彩「 今お前を死なせてもいいけど、今度やったら絶対に死なすから 」 青木に指をさして彩が言った。
「 帰りましょ 」 歩けるようになった哲郎を彩は確認し、青ざめた顔のしもぶくれを残して病院を後にした。 外はすっかり暗くなっていた。天気は良い。
村木病院そばに大型スーパーマーケットがある。 出入り口に人がたむろして店内からのLEDライトの光がその人たちを明暗に彩る。 乗用車や貨物トラックのライトが通り過ぎていく。
「晩御飯何か食べよう。おごるわ」 二人は大型スーパーマーケットへと向かう。
哲郎はメロンパンとオレンジジュース、 彩はアップルパイと牛乳を選び一つの買い物かごに放り込みレジでよれよれの千円札を出した。
駐車場になっている屋上へ二人は階段で登った。
大型スーパーマーケットの看板を照らし出す大型ライトを横にして、フェンス近くのアスファルトに二人は横に並んで座り込み食事をした。
二人は晴れた夜空を一緒に見上げ、大型旅客機が通り過ぎるのを見た。
* 彩と鬼田君(1) 終 *
 |
No.29 - 2026/03/08(Sun) 21:50:17
|