 | * 竜牙(2) * 武井信夫 作 *
−西暦2023年2月4日(土) 文化厚労賞受賞作品− −西暦2026年1月20日(火) 文化大臣賞受賞作品− −西暦2026年1月20日(火) 文部文学賞受賞作品− −西暦2026年1月20日(火) 文部大臣賞受賞作品− −西暦2026年1月20日(火) 菊花賞受賞作品−
風井竜牙は渡康介を倒したことで、高校生では敵がいなくなった。 竜牙は高校3年生になっていた―
その夏休み― 煙草を吸いながら繁華街を歩いていたら、刃物を持っている不良3人にカネを要求され、そのうち1人の顔面へ右拳をいれて、半殺しにした。
残る2人は逃げた。
1人が倒れていた。
「死なねえものだな」と、竜牙は思った。
竜牙は 首を 締め付けない エスパーのような恰好を していた。 青い服、茶色いベルトを黒いカーボンバックラーで止め、ブカブカの白いズボンをはいて、黒ブーツ。胸には楔形文字のようなマークが白く縫い込まれていた。 縦線、横線、右上から左下へ斜めの線(縦横線の重なる部分にぴったり通っている)。 警視庁公安九課エスパー課隊員と同じ格好である。
普段からの繁華街でのこうした喧嘩に明け暮れるうちに、警察上層部に噂が広がり、見込まれ、警察が手を焼いている相手に高校三年生の風井竜牙に様々な許可― 殺人の許可を与えたのだ。 松濤館空手2段。
竜牙はサングラスをかけていた。 自分で選び抜き、安物だが センスが良い。 学校へ通う時もその格好だ。 竜牙には女子生徒からのラブレターが後を絶たない。
最近、テレビを賑わせている話題というか、ニュースや討論がある。 宗教団体の一つのようだが、強引に信者をつくるとかの話だ。
竜牙は警視庁公安九課で、その宗教−大上真理教へ潜入捜査と実情を調べてこいと井上部長に命令された。
制服はもちろん脱ぎ、素性を隠し、冬なので、白いセーターと紺のジーパンの格好になった。 高校3年生の痩せている竜牙にはよく似合った。
あまり寒さを感じないまで普段の空手の練習で鍛え上げられているためマフラーは暑かったので公安九課からの支給品のそれは置いて煙草を2本吸ってから大上真理教本部へ向かった。 いつも身に着けているサングラスはもちろん九課に置いていった。 髪の毛は くしでライオンの毛からちゃんと整えた。
日本の高校は竜牙が卒業したら全国、全校廃止である。 最近しばらく学校へ行ってない。行ってもあまり意味がないし、警察の仕事や訓練のほうが優先だったためだ。
東京に本部のある大上真理教が見えてくる。 2階建ての白い建物。竜牙は大上真理教のパンフレットをもって入信所へと足を運んだ。 九課から支給された30万円をもって「入信したい」と言って中へ入った。
背広を着た大男 −筋肉質 体は四角い−が、マイクを持って信者たちに怒鳴っていた。 説法のようだが、竜牙のデリケートで透き通った頭と耳にはとにかくうるさかった。
数見達治というその男は、新入信者こちらへと竜牙を小部屋へ案内し、しばらくそこの椅子に座って待つようにと鉄ドアを閉め、(ガチン)と錠をかけた。 そのとたん、竜牙は体がドロドロになった感覚に陥った。
天井の上部スピーカーからはカン高い若い男の声 − 二宮かおる と 名乗った − で 大上真理教 を 抜けたら 呪いが降りかかる、最後は死ぬ と 言いはじめ、 竜牙は今度は 頭の中に 引っ掻き 切り刻まれる ノイズを走り回された。
鉄扉の下の食事用の子扉からは簡単な食事が提供されるが、竜牙は食べない。 薬物に警戒したのである。水やお茶は飲むしかなかった。
3日目−竜牙が床に倒れこんでいた時、数見達治と二宮かおる( 痩せたノッポでワイシャツ半ズボン靴下スニーカーだ )が二人で部屋に入ってきた。 竜牙は弱ったフリをして − 弱っていたが − チラチラと様子を伺った。 直感でこの二人に念をかけられていたのだとわかった。
四角い大男が竜牙の体をドロドロの状態に、痩せたノッポが頭へのノイズである。 ( 体と頭か なるほど ) 竜牙は理解した。
親玉を見つけ出してやっつけてやろうと決めた。
薬物を水の入った吸い飲みでぐったりしたフリの竜牙に飲まそうとしたとき、竜牙は爆発した。 3秒で数見と二宮は口から血と泡を吐いていて、扉が外から閉められそうになったとき、二宮を鉄扉へ投げた。 二宮は頭から隙間にはまった。 二人とも前歯も金玉も潰れたが、この位でいいだろうと竜牙は許した。 後で罪状を吐かせてやる。
二宮と数見を竜牙のいた部屋に残し、奪った鍵で鉄扉に錠をかけ、出た広場を見渡した。
すると、和式服を着て巫女の祈祷棒(おはらいぼう)を持った女が出てきた。袴などは使わず、洗練されている。 年増だが美人。竜牙の母親と同じくらいの歳に見えるので40歳か。 色白で眼(目)が凄い。 くしを 通しただけと 思われる髪は 黒光りして 前は 女らしく分け、後ろへ長く伸び、つるつるの黒髪直毛。化粧はしていないようだ。鼻の穴が小さく縦長で可愛い。やや面長か。
「 私は大上教の 江口しの と 言う。 お主、誤解しておるようじゃのう。 お主が進んでここへ入信してきたのだ。 その 冊子を持ち、カネを持参してな。 皆、今日の講義は終わりにする。 今日と明日は無しじゃ。 風井竜牙 と いったな。 ここには 大勢の信者が 後片付けやら なんやらで 残っている。 場所を 私の部屋に変えよう。 ついてまいれ 」
「 腹が減った 」 と 竜牙は言った。 しの「 そうじゃな。 握り飯をつくらせる。 食ってから、ついてこい 」
野菜の煮たものが入った和食器と具の入っていない味噌汁と海苔でくるんだ丸い握り飯が小高い食盆の上にのせられて運ばれてきた。
しの「 あの二人はのう、だめじゃ。わしにくっついて、仕切って、無茶苦茶だ。お前がのしたから、わしがこうして出てこれたのじゃ。わしを立てて宗教組織をつくって拡大を続けるなどと。わし一人で小さくやってれば良かったのじゃが、手に余ってのう。わたしは引っ込んでいた 」
竜牙「 すると、それじゃ 」 しの「 食い終わったか 」
体に何も異変が起こらぬどころか体に活力が満ちた竜牙は江口しの の後について彼女の部屋に一緒に行った。
しの が竜牙の眼を見た。 突然、しの が消えて電気が消えた。
竜牙はらしくなく心理に恐怖が芽生えた。 竜牙 < 俺がこんなことくらいで? >
入ってきた後ろの扉を開けようとしたら、ただの壁になっていた! そしてしの の居た方を見ると、大きな机の上に虎が一匹いた! 虎は竜牙に襲い掛かる体勢になった。
竜牙は今までの空手の修行を通して成獣した虎には人が素手で勝てないことを知っていた。 筋肉というか、体がまるで違うのである。
しの の立っていたはずの方向の机の下 − つまり、虎はその机の上にいたのだが、竜牙はその机の下の方へ 走って滑り込んだ。 机の上から虎の体重の重みが机の音を立てている。 すると、竜牙の居る所へ、怯えた猫が入り込んできた。 白くて大きな洋猫だった。
どこかで見た猫だ。竜牙の知っている猫。 職場のメスのラグドールだった! < ゆきち! > 竜牙は背中を丸めて素早くかばうようにかかえてゆっくり持ち上げた。
どんどん部屋が暗くなってくる。 行き止まりかもしれないが、机を俊速の足で背を虎に向けて出て、左に走った。長い通路。全力疾走である。
分かれ道にあたった。右側に90度の角度で通路が伸びている。 ゆきちが暴れ始め、竜牙を引っ搔いて右側の通路へ走り去って暗闇に消えた。 ゆきちを追って右側の通路を全力疾走する竜牙。
鉄格子に当たった。 猫のゆきちは 通れただろう。 戻ると虎に出くわすかもしれない―
「 ゆきち!どうするんだ! 」
竜牙は魔力のある猫ゆきちに頼っていた。 そこへ、おもちゃを持ってくるように鍵(金色のもの)を口にくわえてゆきちが来た。 離れたところに鍵をポロンと落とす。
後ろから虎がゆっくりと近づいてくるのがわかる。 竜牙は汗だくになっていた。
慌てた手で鉄格子の奥のカギを腕を伸ばして指先でやっと引き寄せて掴んだ。
鍵が合った! 後ろも見ずに 鉄格子を開いてそこへ虎が爪と牙をむいて襲い掛かってきた! 滑らかな動きで竜牙は鉄格子をくぐり扉を閉じて鍵を外側か内側かは分からないのだが、掛けた。 虎はガンガン鉄格子を攻撃している。
見回すとゆきちはもういなかった。
竜牙は暗い部屋に立っていた。< これが現実か? >
ゆきちが九課の助けか幻なのか分からないのだが、アイドルの魔猫のおかげで元の(?)部屋に戻れたようだ。
真っ暗。窓ガラスの外は曇り空の夜なのか、ほとんど明るくない。 後ろを見ると、入ってきたドアはまた壁だ。
前を見ると、嫌な予感はしたが 通路が三つのトンネルになっていた。
右側からゾンビ―の日本兵が行進してくる。ゾンビ―になっても戦闘行進している顔が青白い。
竜牙の性格的に一番離れた左側のトンネルには入りたくない。失敗しそうなのだ。
罠かもしれない― 真ん中のトンネルに突っ込んだ。
真っ暗闇だが、濡れた石でアーチを描いたトンネルをピチャピチャ水を跳ねて竜牙は走った。 進むと、しゃがみこんで背中を丸めて何かを食べている男(?)がいる。 近づくと、角の生えた鬼が何か動物を食べている。その動物の足を引き千切り、毛のついたままの足を食べている。 竜牙は鳥肌が立った。汗も凄い。
猫を食っているのではないか―
よくみると軍服を着た鬼だった。 壁には三八式歩兵銃を立てかけている。
鬼がゆっくり振り向いた。目が蛇のような鬼だった。
そのとき、その目が恐ろしく光り輝いた。
竜牙は戦車の中にいた。これから樺太でロシアを迎え撃たなければならない。 ベテランに混じった少年兵として このままでは日本は と思った。 頼んで、上の外側の扉を開いてもらった。 日本陸海軍の航空機。
ロシアの上陸部隊を日本兵のベテランたちが機関銃や榴弾砲をポンポン撃って迎え撃っている。 竜牙の右肩にロシア兵の銃の弾が当たった。 「馬鹿!早く戻れ!」と、痩せた中年兵士が怒鳴る。
戦車内では鳥かごに黄色い鳥を飼っていた。
この鳥は何ですか と 竜牙は聞いた。 「毒ガス探知用だよ」
その鳥が暴れたり、死んだら これをつけろと 毒ガスマスクをどさりと置かれた。
そのとき、鳥が暴れ始めた! 毒ガスマスクを慌ててつける竜牙。 皆つけはじめる。
その時、竜牙は鳥をかごから出し、上扉を開き、外へ逃がしてやろうとしたが、飛べそうにない程に弱っていたので、自分の懐へ入れた。 「 もう たくさんだ! 」 そのとき、ふと竜牙の鋭く強い直感が走った。 迷っている。自分は迷っている。 真っ直ぐだ。最短距離を真っ直ぐ。 竜牙は戦車を出て銃弾飛び交う地上へと軍服とマスク姿で戦車から飛び降りた。
そのとき、部屋に戻った。
窓ガラスから月光が差している。 さっきよりは明るい。
人影があった。 顔を睨んだ。
相手の目が強烈に光った!
竜牙「 真っ直ぐだ 」
一瞬 異世界に入るが すぐ戻る。
また部屋の光景で月明かりの窓。人影。
ゆらり ゆらり と世界がぶれるが、油断や不意を突かれなければ、その程度で済む。
江口しの が近づいてくる。ズーム・アップされるように眼が巨大だ。そしてもの凄い輝きを放った!
真っ暗な円形コロシアムで野犬の群れに囲まれている。 人骨が散らばっている。 十字架にかけられた職場の知り合いの女、菊花と三村なおと、鳥かごにゆきちが入っている。 三人と一匹が数えきれない眼の光る野犬の群れに襲われているのを悟った。 竜牙は足を犬に食わせながら、ゆきちを鳥かごから出し、胸で抱いた。 器用に菊花と三村なおを十字架からロープをほどいた。 激痛と出血と疲労で頭がぼんやりしてきた。 左腕に菊花、右腕に三村なお、首に猫のゆきちを巻き付けてコロシアムゲート出入口へ進んで行く。 本当の痛みだった。竜牙の足は噛み跡だらけで食いちぎられ骨が見えてきた。 コロシアムゲートに進んでも延々と距離があり、何故か近づけない。 骨だけの下半身になりそのまま立った。 歩けずそのまま立つ。 ゆきちが怯える。 菊花と三村なおは眠ったままだ。
そのとき、床に横たわった姿で大量の汗を流しセーターやジーパンをびしゃ濡れにした竜牙は意識が飛び戻った。 江口しの が無表情でパイプ椅子に座っていた。
しの「 わしは折れた 」
竜牙の左肩が痛む。 戦車の時に撃たれた傷か。 手当されている。
江口しの が手当したのだろう。 包帯が巻かれているようだった。
しの「 わたしに何か用があるのじゃろう?好きにすればいい 」 竜牙「 警視庁公安九課に来てもらう。いいな? 」
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二人は任意で九課へ来た。 江口しの は全て話した。 目的は宇宙の真実に近いことを皆に説いていたこと。 大上真理教の教義の内容、団体の仕組み、犯罪者にまとわりつかれて大団体に近くなっていったこと。
しの の服はサクラ色の和式服で赤い傘と書類カバンという格好であった。
しの「 一体、虎の時の猫はなんじゃ? 」 九課「 ああ、我々が派遣したのです 」
そのとき、あのときの大きな雌の洋猫が竜牙に抱っこされていた。
教義の内容は間違えた内容ではなかったこと。 金儲けではなかったこと。 しの 自身はそう。
周りの連中たちが悪く、組織にして しの のとりまきや集まりを腐らせてしまった。
しの は 竜牙に抱っこされている猫を撫でた。 しの は 自分を打ち負かした竜牙に恋心を抱いた。 しの の申し出により、警察力で大上真理教を解体した。
* 竜牙(2) 終 *
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No.21 - 2026/03/08(Sun) 20:30:14
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