杉並児童合唱団2012ニューイヤーコンサート鑑賞記 【平成24年1月21日(土)PM6:00〜8:00、武蔵野市民文化会館大ホール】
☆イントロ 開演前 当日は生憎の雨模様であったが、私には天候など何の問題もなかった。逸る心を抑えながら開場1時間前の午後4時半には武蔵野市民会館に到着していた。 実は、合唱好きのある人物と落ち合うことにしていた。その人こそブログ「玉葉」の書き手である九条兼実さんである。昨年にNHKBSプレミアムの「熱中スタジアム」〜みんなのうた〜でご一緒した??くじょうさん?≠サの人である。 番組が縁で私はブログにちょくちょくコメントを書かせていただいていたが、昨年秋の杉児定演の鑑賞記を書かせていただいた折から、次のコンサートは一緒にという思いがあった。それを2012ニューイヤーコンサートで実現させることになったのである。 NHKのスタジオでの面識はあったが、直接の会話は初めてであった。私は、まるで旧知の間柄のように気軽にお話しさせていただいたが、同じ趣味を持つ者同士の心の通じ合いがあってこそのことであった。お会いした直後から話が弾んだことは、言うまでもない。 食事をしながら、ひとしきり合唱や「みんなのうた」の話に花を咲かせた後、会場入りした。受付で綺麗な女性スタッフから手渡しでプログラムを受け取り、席に着くなり演奏曲目を確認する私がいた。実は、杉児の演奏曲目は事前には数曲しか公開されていない。当日配付されるプログラムで初めて全てが明らかになるのだ。 予めくじょうさんには望遠鏡を持ってくるようお伝えしていた。なぜなら、席が最後列で団員の表情が見えないからだ。昨年秋の定演の際も最後列だったので、学習していたのだ。私はオペラグラス、くじょうさんは小型望遠鏡を持ち準備万端であった。 やがてコンサートの幕が上がった。椅子に腰かけてタクトを振る志水隆先生と艶やかな衣装でピアノを奏でる津島麻子氏。壇上には整然と並んだいつもの杉児メンバーが現れた。 その姿に胸がときめいていた。ヨハン・シュトラウス2世の作曲による第1曲目のイントロを静かに待った。
☆第1部 カンタービレ〜中山知子作品集より〜 やがて聴こえてきた軽快な曲は『トリッチトラッチポルカ』である。可愛らしい振りがついていた。一曲目から観衆を惹き込んでしまった。思わず顔がほころんだ私であるが、辛口コメントを言うと、もう少し速いテンポで歌ってほしかった。なぜかというと原曲がそうだからである。耳慣れたテンポより若干遅かったので、騒がしい感じ、ないしょ話をしている雰囲気は醸し出していたのではあるが、本来「トリッチ・トラッチ」の持つ意味である「ぺちゃくちゃ楽しくおしゃべりする」というのを多少削いでしまった感があった。(決していちゃもんをつけているわけではないのでご容赦を!)くじょうさんには、杉児コンサートのエンターテイメントについては、説明済みであった。お洒落な振付つきの合唱を目の当たりにし、微笑んでおられるのが分かった。 さて、今回の演奏会は中山知子作品特集であったが、この第1部がその皮きりであった。中山氏は私がこよなく愛するNHK「みんなのうた」に数々の作詞・訳詞を提供されておられる。阪田寛夫氏と共に双璧ともいうべき方である。私の調べでは、こんな曲の詞を書いておられる。 いろんな木の実、ピエロのトランペット(La Tromba del Pagliassio)、峠のわが家(Home on the Range)、レロン レロン シンタ(やさしいやさしいおともだち)、小鳥の結婚式(「ゲレンデの穴」と同じメロディー)、谷間をゆけば(Zillertal, du bist mei Freud)、はさみとぎ、小さなカレンダー(Il Calendario di un Bambino)、お馬にのって(Reiterlied)、ぼくらのトロイカ、ひなげし(Gentil Coquelicot)、つむじ風(Der Wiebeiwind)、雨がふっても、トットトコ、ひかるこみち(Wenn uber Sonnenwegen)、山道ゆくなら(Si vous passez par ja vallee)、ひげのお医者さん(doctor Eisenbart)、若葉の歌(L,inevrno e passato)、ふるさとのヨーデル(Erzherzog Johann Lied)、こがねの秋、月の光、木ぐつ(サボ)をはいて(Avecque mes sabots,Don-Daine・・・)、こびとのうた"Snow-White and The Seven Dwarfs"より、ねこの子もりうた 今回は、この中から『小鳥の結婚式』『小さなカレンダー』『ぼくらのトロイカ』の3曲が披露された。 幼少時にNHKテレビで試聴した懐かしい曲ばかりだ。3曲共に1965年の放送であった。 『小鳥の結婚式』 ♪ つぐみの 若者が むかえるよ 花嫁さん フィディラララララ フィディラララララ フィディラララ ラララ ラー とにかく楽しい歌だ。様々な種類の鳥が次々に現れる。団員がそれを見事に捉えて歌う。例えば??どら声を はりあげて 七面鳥が ごあいさつ?≠フところは、実際にどら声風に歌ってくれた。エンディングが高らかに歌い上げられて、正に拍手喝采である。 『小さなカレンダー』 ♪ そして粉雪が チラ チラ みんなで待っている クリスマス 鐘が空から ラン ラン ディンドン ディンドン ディンドン イタリアの子供音楽祭「ゼッキーノ・ドロ」の入賞曲が「みんなのうた」に取り上げられ、N児が歌った。番組では上記の歌詞であったが、杉児の歌詞は最後の『ディンドン』が『ディンダン』と歌っているように聞こえたが、それもありだ。静かに始まり、リズミックに転調し、途中の秋のところで落ち着かせ、盛り上がって終わるという起承転結の物語になっている良く出来た構成に改めて聴き惚れたのである。 『ぼくらのトロイカ』 ♪ 行く手には 開けてくる かがやく 春の日が この部分が特に美しい。この曲も「みんなのうた」では、N児が歌っている。チャイコフスキーの原曲にかなり忠実な編曲である。山本直純氏の手によるものだが、今回の演奏はまさしくそのアレンジをそのまま採用していたようで、耳に馴染んだ心地良さをもって聴かせていただいた。やはり名曲である。 クラシックを編曲した曲としては、後に『小さな木の実』が大胆なアレンジで人気を博すことになるが、この正統派のアレンジも捨てがたいと改めて感じた次第である。思えば、「みんなのうた」のクラシックアレンジの草分け的な曲だった。派手さはないが、心に染み入る。 「みんなのうた」にはロシア民謡のポピュラーな曲『トロイカ』(雪の白樺並木 夕日が映える)もあるが、隠れた名曲であることを確認できたことも嬉しかった。 津島氏のピアノの腕には目を見張り、加えてOBである市川氏のバイオリン伴奏が曲の完成度を高めていた。OGメンバーによる合唱なので、児童合唱の域を超えていたし、少し大人の女声合唱は、本当に心地よく耳に入ってきた。 余談であるが、これら「みんなのうた」に関する私なりのコメントを次の場所に寄せているので、ご覧いただけると有難い。 http://homepage2.nifty.com/mtomisan/page020.html 『エストレリータ』をプログラムの中に発見した時は興奮した。宮崎少年少女合唱団バージョンが私の脳裏をかすめた。古いレコードの中に収録されている宝石のように美しい一曲である。私は、この曲に魅力にハマり、何百回となく聴いている。その愛すべき曲をこのステージで聴けるなんて……期待に胸が膨らんだ。 「この曲、私が大好きな曲なんですよ」 傍らにいたくじょうさんに告げた。 やがて演奏が始まった。 ♪ 星よあなたの瞳は小さいけれど 今宵も冴えて 波のうねりの彼方を 夢みてるわたしに語りかける 星よあなたの光はいつのまにか ひときわ強く 夢の形をいろどり 憧れの道へと誘いかける 空の星のただ一粒でも きらめくサファイア だからわたしも預ける ささやかな願いを心をこめて (省略) ラララ――― (美しい!レコードと同じアレンジだ。)心の中で呟いた。中山知子氏が宮崎少年少女合唱団のために書き下ろした訳詞のはずなので、当然のことだった。杉児と宮崎は姉妹合唱団だったので、私の持っているLPレコードは、中山氏の解説による両団のベストアルバムと言っても良いものであったが、宮崎少年少女合唱団のこの曲は、本当に美しかった。それにしても生で聴く『エストレリータ』〜小さな星〜は、別格であった。私は、この1曲だけで大満足したのである。 「ラテン系の美しい曲ですね」 くじょうさんも気に入った様子で、休憩時間にCD販売コーナーを見に行った際に、この曲を探したとおっしゃっていたので、嬉しくなってしまった。 「メキシコの作曲家ポンセはこの1曲で有名になったんですよ」 調子に乗って余計な解説まで付けている私がいた。 ところで、『エストレリータ』の「静」に対し、「動」の名曲が宮崎少年少女合唱団の持ち歌に存在する。『パリカナイユ』である。いつの日か、この曲も披露いただけないものかと慾が出た。
☆第2部 杉並ポピュラー〜アプローズvol.7〜 杉児のステージと言えば、やはりこれである。他の児童合唱団とは一線を画す特徴が調所に現れる。歌、ダンスの統一されたステージショーは、いつも見応えがある。今回も舞台狭しと繰り広げられたパフォーマンスに児童合唱団の枠を飛び越えたエンターテイメントを観た。登場した面々はOGグループであるが、ひな壇に整然と立ち並ぶ姿に統一感があった。しかも、スカート、パンツルックと衣装には統一性がないにも拘らずでのことである。はっと気が付いた。全員モノトーンで統一していることに。そうか!色調の統一感だったんだ、と。白、グレー、黒の3色を基調にしていたのだ。心憎い演出である。こうした細やかな演出から、徹底して魅せるステージを創り上げていることを窺い知ることができた。 『ソウルトレイン』や最後の『ロックンロールメドレー』は、元気溌剌のダンスが素晴らしかった。あのAKB48も真っ青である。 私のお気に入りである『プリーズミスターポストマン』をまた聴くことができたのはラッキーだった。くじょうさんに私のお気に入りであることを告げた。すると、くじょうさんも合唱をやっていて、今練習している曲だとのこと。偶然のことながら、タイムリーであった。 杉児は『虹のかなたに』『野生のエルザ』『ある愛の詩』『聞いてください僕の気持を』など、何度でも聞きたくなる優れたアレンジの曲をたくさんレパートリーにしている。この??杉並ポピュラー?≠ヘ、華麗なるステージショーとして確固たるものに出来上がっている。
☆第3部 杉並ミュージカル『かさじぞう』 中山知子特集の最後を飾るステージである。 「あっ、やっぱり小池乙史さんだ。すごいなぁ、ずっと主役張ってるんですよ。きっと、杉児のエースなんでしょうね」 プログラムのキャスティングから思わず発した私の言葉である。くじょうさんへの説明も兼ねたものであった。 舞台の幕が開き、??じい?*?の小池さんが登場した。やがて、その歌声が披露された。 (上手い!)何時もの美声が会場に響き渡った。良く通る声質、裏声も素敵だ。たおやか、つややか、あでやか、まろやか、さわやか……どう言えばピッタリはまるだろう?そんなことを思いながら、美声に痺れていた。 さらに、驚いたことには、??かんざし売り?*?の新井日菜乃さんが負けず劣らずの美声であった。生え抜きのメンバーなのだろう。もっと驚いたのは、キャストに紹介されていない他のメンバーである。一人ひとりが端役ではなく、主役ともいうべき演技を披露してくれた。しっかりと自分の役柄を弁えてのステージは、見事言うしか言葉が見つからなかった。その凝ったステージは、どこを観ればよいか迷うほど隅々まで創り上げられていた。 『かさじぞう』のお話は、有名なのでストーリーが読めた。それなのに、最後には感動で涙を滲ませてしまうのだから、凄い。名演奏、名演技に完璧に酔わされて、ハンカチを出さずに涙を堪える中年男がいたが、それは私である。じいが6体目のじぞうに自分が首に巻いていた手拭を掛けてあげた時には、感極まり心の中で泣いていたことを白状しよう。 中山氏の作詞で越部信義氏の作曲である。越部氏というと、『地球を七回半まわれ』『冬の行進』など、私には元気で明るい曲というイメージがある。このミュージカルは、全体的には流麗な曲が多かった。越部氏を見直した次第である。そして、この両者の合作とあらば素晴らしい作品になることは間違いないところだ。案の定、私を泣かせる内容になっており、実感できたのである。そして、その素晴らしい作品を歌い演じた杉児の実力があってこそのステージであることに、改めて心からの称賛の拍手を贈らせていただく。ブラボー!!! 最後の場面で、ピアノを弾き終えた津島氏が??じい?≠竍?ばあ?≠ニ同じように、腰を曲げて退場する茶目っ気を見せてくださった。心和らぐ終わり方であった。
☆アウトロ 閉演後 今回も存分に楽しませていただいた。遠路ということもあり、そう度々は足を運ぶことはできそうにないが、次回が楽しみである。いつであろうとも内容の濃いステージであることは承知しているので、演奏曲目が私にフィットした時は、何を差し置いても出かけることになろう。 それから、イントロで触れたことであるが、演奏曲目は公式ホームページで全曲を公開していただきたいというのが私からのお願いである。今回『エストレリータ〜小さな星〜』が用意されていたが、この曲は事前には公表されていなかった。私にとっては全曲中の目玉になる作品である。もし、コンサートに来ていなかったならば、知らずに居て、後で後悔したであろう。 それから私にとっての杉児の代名詞となる曲『うたう足の歌』を、元気なうちに聴かせていただきたい。生きているうちに何としても生で聴きたい。事のついでと言っては失礼に当たるが、今まで遠慮がちに書いてきたので、今回はあえて次回公演に向けてさらなるリクエストさせていただく。この中から一曲でも良いので歌っていただけたらと願う。 『グリーングリーン』『山のスケッチ』『青い芽』『若人の歌』『さわると秋がさびしがる』『モルゲンローテ』『夕日を追いかけて』『元気に笑え』『夏休み日記』『小鳥の歌』『海はまねく』『おおひばり』『若い海』『サウンド・オブ・ミュージック』『アップ・アップ・アンド・ウェイ』『夢をのせて』『空のおひさま』『誕生日のチャチャチャ』『夜明けの馬』『風がふいたら』『この橋の上で』『塔の春』『風吹きめぐる』『佐渡の冬』 欲張り過ぎだ。まだまだ思いつきそうだが、この辺までとしよう。リクエストで締めくくるのは如何にも自己中であるが、これがファン心理というものである。お粗末ながら、鑑賞記とさせていただく。
☆おまけ コンサートを観に行こうと決心したのは、二週間ほど前のこと。くじょうさんにメールで連絡し、それから手配したチケットであった。やがて、自宅に送られてきた杉児からの封書には小便箋が同封されていた。 「いつも遠方よりありがとうございます 太田」 事務局の太田薫さん直筆の優しいコメントであった。これには心動かされるものがあった。こうした気遣いこそが、杉児の底辺を支えていることを感じ取った。実はこれが初めてではない。今までもチケットが送られてくるたび同様のコメントがあったのだ。こうした縁の下の力持ちとなる優秀なスタッフが大勢いらっしゃって、杉児は素晴らしいエンターテイメントを繰り広げられることができるのだと思った。 (平成24年1月24日 るんるん) |
No.59 - 2012/01/24(Tue) 18:00:01
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