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掲示板 DC

こちらは、陸内(くがない)なるみのDeepCollectionの掲示板です。
2022年4月から作品発表をピクシブに移行しておりますので、この掲示板では近況や更新情報などを載せていくことになります。
 pixiv:80426221 です。

尊敬 / なるみ



 寮の部屋が一緒になったのは偶然ではないだろう。
 日向の怖さと粗暴さとに恐れをなして、同郷で気心の知れた若島津を同室に配置したものと思われる。
 実際には日向はフィールド以外では暴君ではないのだが、イメージが悪すぎた。
 結果として居心地がいいのだから文句はないのだが……。
「なあ、お前いつから俺のことさん付けで呼ぶようになったんだ」
 窓辺に向かって据えられた机には教科書が広げられている。
 横に並んで腰かけている若島津に日向は聞いた。
「それは……中学に入ってしばらくしてからですかね」
「それで、先輩を不愉快にさせてまで呼び続けてる訳か」
 少しのため息。それを拾って若島津は綺麗な微笑みを見せる。
「日向さんを尊敬してるからですよ」
 すました顔で言ってのけた。
「なんだよ尊敬って。同じ年じゃねえか」
 上半身を後ろに反らして頭をかく。居心地悪そうだ。
「お前、そうやって時々からかってくるよな」
「からかってませんよ。本気で尊敬してるんです。サッカー選手としてだけでなく、ひとりの人間として凄いと思ってます。俺は日向さんの生き方が好きです」
 真っすぐな視線で彼は日向を見る。
「どういう反応したらいいんだ。まあ、なんて言うか、お前の期待に応えられる人間になるよう努力するさ」
 日向はサッカーでも勉強でも生き方でも鍛錬を欠かさない。とてもストイックだった。
「そういうところも好きですよ」
 若島津はなぜだかくすくすと笑っている。今度は間違いなくからかっているようだった。
 けれど日向は不快には感じず、むしろ目の前のその顔がかわいくて、自分の鼻先を軽くかいた。
「若島津、ちょっとこっち寄れよ」
「はい」
 手の先で招くとすんなりと顔を寄せてくる。
 尊大な態度も苛立ちも彼はいつも受け入れる。
 不思議だった。
 彼ほど自尊心の高い男が自分には付き従ってくれる。
「俺のなにがお前の気に入ったんだか知らねえが、俺はお前を失望させないからな」
 宣言するの姿の雄々しさに若島津は目を細めた。
「日向さん、そういうとこ好きですよ」
 まだからかいを続けているのかと思いきや、意外なことに彼の頬は赤みを帯びていた。
「俺もお前が好きだぜ」
「日向さん……」
 さらに赤く染まった頬に日向の手はそっと触れる。
 構えたところもなく自然な流れで、彼らは初めてのくちづけを交わしていた。
No.1124 - 2020/10/15(Thu) 23:09:30
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