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掲示板 DC

こちらは、陸内(くがない)なるみのDeepCollectionの掲示板です。
2022年4月から作品発表をピクシブに移行しておりますので、この掲示板では近況や更新情報などを載せていくことになります。
 pixiv:80426221 です。

鉛筆 / なるみ






 願掛けのように髪を伸ばし出してから随分になる。
 普段、勉強の時などはゴムでまとめて邪魔にならないようにしているのだが、さっきから肝心のゴムが見当たらない。
 仕方なくペン立てから鉛筆を引き抜いた。
 手で髪をまとめてひねり上げ、その中心をすくい取って鉛筆を器用にくるりと回す。
 かんざし代わりに応用したのだ。
「お前よくそれで髪が止まるな」
 鉛筆でまとまった後頭部をしげしげと眺めて、日向は感心して言った。
「一本で止めちまうんだから器用だよな」
「姉貴に教わったんですよ」
 若島津は何でもない事のようにこたえて微笑む。
 綺麗な顔だった。
 日向はちょっと見惚れてしまう。
 最近彼はなにか変わっただろうか。
 いや、変わったのは日向のほうだろうか。
 自問自答しながら囁いた。
「髪、長くなったな」
「そうですね」
 若島津の受け答えは普通だった。
 変なのは日向のほうだ。
 日向は彼の背後に立ったまま動かない。
「なんですか?うまく止まってませんか?」
 ぶっきらぼうな視線を感じて若島津は聞いていた。
 日向はまだ動かない。
「……いや、ちゃんと止まってるぜ」
 くぐもった声が寮の室内に低く響く。
「ならなんで突っ立って…って、ひゃっ」
 若島津は突然変な声を上げてしまっていた。
 うなじになにかが触ったのだ。
 ぬるりとしたなにか。
「日向さん、なにして……」
 右手で首筋を押さえて立ち上がる。
 もしかして舐められた?
 思い至って彼の全身が震え出す。
「お前のうなじ綺麗だな」
 首筋を晒すのはなにも初めてではないというのに、なんて感想だ。
「白くて、つるっとしてて、俺の肌とは全く違うな」
「なにを今さら」
 日向の日本人離れした褐色の肌と比べたら、誰だって違う色味だろうに。
「なんか今日はお前のうなじがすごく気になってさ」
「気になったら、その、そんなことするんですか?」
『舐めるんですか』とは聞きづらくて、たどたどしい問いかけになる。
「いや、本当に、綺麗だしうまそうだからなんとなく」
「なんとなくって、なんとなくって、うわー!」
「叫ぶなよ」
 隣りの部屋から級友がすっ飛んでくるかもしれない。若島津は口を噤んだ。
「うまかったぞ」
「うまいって……、勘弁して………」
 なに言ってくれちゃってるんだ、この人は。
 非難する視線を気にすることもなく、日向はのんきに言い放つ。
「また舐めさせてくれ」
「なっ!!」
 とんでもない申し出に衝撃を受けていた。
 そして、うなじを両手で守ったまま若島津は勉強机に突っ伏したのだ。
No.1125 - 2020/11/09(Mon) 23:38:38
尊敬 / なるみ



 寮の部屋が一緒になったのは偶然ではないだろう。
 日向の怖さと粗暴さとに恐れをなして、同郷で気心の知れた若島津を同室に配置したものと思われる。
 実際には日向はフィールド以外では暴君ではないのだが、イメージが悪すぎた。
 結果として居心地がいいのだから文句はないのだが……。
「なあ、お前いつから俺のことさん付けで呼ぶようになったんだ」
 窓辺に向かって据えられた机には教科書が広げられている。
 横に並んで腰かけている若島津に日向は聞いた。
「それは……中学に入ってしばらくしてからですかね」
「それで、先輩を不愉快にさせてまで呼び続けてる訳か」
 少しのため息。それを拾って若島津は綺麗な微笑みを見せる。
「日向さんを尊敬してるからですよ」
 すました顔で言ってのけた。
「なんだよ尊敬って。同じ年じゃねえか」
 上半身を後ろに反らして頭をかく。居心地悪そうだ。
「お前、そうやって時々からかってくるよな」
「からかってませんよ。本気で尊敬してるんです。サッカー選手としてだけでなく、ひとりの人間として凄いと思ってます。俺は日向さんの生き方が好きです」
 真っすぐな視線で彼は日向を見る。
「どういう反応したらいいんだ。まあ、なんて言うか、お前の期待に応えられる人間になるよう努力するさ」
 日向はサッカーでも勉強でも生き方でも鍛錬を欠かさない。とてもストイックだった。
「そういうところも好きですよ」
 若島津はなぜだかくすくすと笑っている。今度は間違いなくからかっているようだった。
 けれど日向は不快には感じず、むしろ目の前のその顔がかわいくて、自分の鼻先を軽くかいた。
「若島津、ちょっとこっち寄れよ」
「はい」
 手の先で招くとすんなりと顔を寄せてくる。
 尊大な態度も苛立ちも彼はいつも受け入れる。
 不思議だった。
 彼ほど自尊心の高い男が自分には付き従ってくれる。
「俺のなにがお前の気に入ったんだか知らねえが、俺はお前を失望させないからな」
 宣言するの姿の雄々しさに若島津は目を細めた。
「日向さん、そういうとこ好きですよ」
 まだからかいを続けているのかと思いきや、意外なことに彼の頬は赤みを帯びていた。
「俺もお前が好きだぜ」
「日向さん……」
 さらに赤く染まった頬に日向の手はそっと触れる。
 構えたところもなく自然な流れで、彼らは初めてのくちづけを交わしていた。
No.1124 - 2020/10/15(Thu) 23:09:30
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