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掲示板 DC

こちらは、陸内(くがない)なるみのDeepCollectionの掲示板です。
2022年4月から作品発表をピクシブに移行しておりますので、この掲示板では近況や更新情報などを載せていくことになります。
 pixiv:80426221 です。

挑発 / なるみ





 日向の不機嫌は続いていた。
 ここのところ常にピリピリしているので周りも近寄ってこない。
 けれど一番近くにいる人間は平気な顔をしていた。
 いや、日向の不機嫌の元凶は彼だったのだ。
「俺をこんな風に悩ませやがって」
 同室の彼らは顔をつき合わせない訳にはいかない。
 日向の絞り出した声を若島津は余裕で交わす。
「俺はなにもしてないですよ」
「ふざけるな」
 苛立ちが眉間に皺をよせさせる。
「俺が日向さんを好きだって言ったから、それでそんなに揺れ動いてるんですか」
 先日日向は彼から告白された。
 友情や親愛ではなく、愛情と欲望とを抱えていると。
 まっすぐに前に向かって行く日向に、振り返って抱きしめて欲しいのだと。
 そう望んだ。
 彼は『俺はおかしいんです』と平静な表情で言った。
『男なのにあんたに抱かれたいんです』と。
 ずっと仲間として過ごし共に戦ってきた友からの告白は、日向の常識をひっくり返した。
 そして自身の中に捉えようのない感情を見つけてしまったのだ。
 どうしたらいいか分からないそれが、戸惑いと苛立ちとを生んだ。
「男同士なんだぞ。そんな簡単に受け入れられることか」
「日向さんがそんなに繊細だとは思わなかったけど」
 そこで深く重いためを作って、若島津は冷えた視線を流す。
「いまの日向さん、滑稽ですよ」
「このっ」
 日向はモラリストだ。
 父親をはやくに亡くしたせいで責任感が強い。
 家族というシステムに重きを置いている。
 誰か優しい女と結婚して子供をもうけるのが当然だと思っている。
 早く母親を安心させるのが当たり前だと考えているのだ。
 そんな思考に若島津の捨て身の告白は大きな罅を入れた。
 若島津は、自分の気持ちが受け入れられないだろうという覚悟をしていた。それでも伝えたかった。日向を手に入れたかった。だから、捨て鉢になって吐き出してしまったのかもしれない。
 彼の無謀な告白。
 それは日向にすぐに否定されて終わるはずだった。
 呆れられ、ばかばかしいと投げ捨てられるはずだった。
 なのに日向は真剣に悩んでくれた。
 だから彼はわずかな可能性があるのを知ったのだ。
 嫌われてもいい。一度だけでいい。
 日向と肌を合わせたい。
 彼は欲望を消すことが出来なかった。
 そして日向という孤高の存在に付け込むことが出来るかもしれないと期待した。
「俺を好きかどうか分からないんですよね」
 痛みのある言葉は彼の口からするすると零れる。
「だったら一度試してみたらどうですか」 
「どういう意味だ」
「俺を抱いてみてください。そうしたらいくら鈍いあんたでも自分の心が分かるはずです」
 なによりもいざとなって肉体が反応するかがバロメーターでもあるだろう。
「よせよ」
 唾を飲み込んだ喉が動く。
 しかし日向は逃げはしなかった。
「理解したいんでしょ。俺のことも。自分のことも」
 そっと手をのばして、彼は日向の浅黒い頬に触れる。
 吐息が近づいた。
 どこか不思議で、魔的で、淫靡な空気。
 若島津の瞳は悩ましく扇情的に潤んでいる。
 彼らが今までに纏ったことのない生々しいそれが、寮の部屋に重々しく沈む。
 若島津は乾いてしまった唇を舌先でゆっくりと濡らした。
 胸に興奮と痛みとを覚えている。
 ジャージのジッパーを下ろして日向の手を素肌の喉元に招いた。
 こんな真似が出来るなんて思っていなかった。
 まさになりふり構わずだ。
 いやらしくさえ思える囁きで彼は思い人を挑発する。
「欲しいんです、日向さんが」
 日向の眼が獣の眼のようにぎらつき出すのを夢のように感じながら、彼は恥ずかしげもなく淫猥な挑発を続けたのだ。
No.1128 - 2020/12/11(Fri) 00:04:51
盗む / なるみ





 若島津は、日向が横合いから自分を見ていることに気づいて、勉強していた教科書をぱたりと閉じた。
「なにじっと見てるんですか」
 我知らず警戒したような声を上げる。
「いや、お前かわいい顔してると思って」
「かっ」
 瞬間彼は頬を火照らせた。日向の視線から逃れようとノートで顔を隠す。
「ばかなことを」
 非難するのをなにげにいなして、日向は考えを廻らしながらいつもより饒舌に続けてきた。
「いや、小学校の時はなんかもっときつい雰囲気があったけど、中学生になってから穏やかになったというか。もちろん覇気が減ったわけじゃない。ゴール前では相変わらず頼りになってる。けど、なんか俺が見る限りではお前は俺に対してだけ特別で柔和な顔を見せている。それがすげぇかわいい」
「そんなことは……」
 意外な観察眼と大胆な指摘とに驚き、彼は眼を大きく開ける。
「なんだよ。自覚がないのか」
「……」
 自覚はなかった。
 でも、日向の言う通りなのかもしれない。
 日向のことを自分は特別に見ている。
 それがそんな雰囲気を醸し出してしまうのだろうか。
 戸惑う彼の顔に不意に影が差す。
 日向が立ちあがって間合いを詰めてきたのだ。
「日向さん」
「俺はうぬぼれてもいいだろ」
 疑問符でもなく、許可でもなく、それは宣言だった。
 慣れているのではないだろうが堂々とした仕草で、彼の顎を指先で持ち上げてくる。
「なにを」
「だまれよ」
 命じられて反射的に噤んだ唇は、あっけなく日向に盗まれてしまったのだ。
No.1127 - 2020/11/25(Wed) 23:23:20
ため息 / なるみ







『なんであんなことしちまったんだろう』
 日向は考えていた。
 若島津はすごく驚いて顔を赤くしていたが、よく考えればそれも無理はない。
 彼の綺麗な髪が気になって、なんとなく触れたり頭をポンポンと撫でたりすることは、今までにもよくあった。いづれも弟妹達にするような親しみ方だ。そう思っていたのだがどうやら違ったらしい。
 過剰なスキンシップだったのだと彼の慌てふためいた様子から察して、さすがの日向も気まずく思った。
 別にからかった訳じゃない。
 思ったことをしたまでだ。
 思ったことを言ったまでだ。
 本気で舐めたいと思ったのだから。
 最終的に逃げるように部屋を出て行った若島津のうなじは真っ赤で、痛々しさすら感じさせた。
 なのに、不埒なことに、それは日向の持つ獣性を刺激したのだ。
 凶悪な感情が頭をもたげた。
 熱が身体中を駆け巡った。
 食らいつきたいと思った。
 舐めるよりもさらにレベルアップしていることに自分ながらに呆れる。
 若島津が部屋に戻ってきたらなんと声をかけようか。
 やっぱり『悪かった』が無難だろう。
 それとも正直に、欲望の赴くままに懲りずに『舐めさせてくれ』だろうか。
 でもたぶん『お前が欲しい』というのが正解だろうと感じている。
 もっと触れたい。
 もっと大胆に。
 もっと深く。
 心の底から彼を欲しがっている自分がいる。
「若島津……」
 青い情熱を持て余して日向はらしくないため息をついていた。
No.1126 - 2020/11/14(Sat) 21:45:46
鉛筆 / なるみ






 願掛けのように髪を伸ばし出してから随分になる。
 普段、勉強の時などはゴムでまとめて邪魔にならないようにしているのだが、さっきから肝心のゴムが見当たらない。
 仕方なくペン立てから鉛筆を引き抜いた。
 手で髪をまとめてひねり上げ、その中心をすくい取って鉛筆を器用にくるりと回す。
 かんざし代わりに応用したのだ。
「お前よくそれで髪が止まるな」
 鉛筆でまとまった後頭部をしげしげと眺めて、日向は感心して言った。
「一本で止めちまうんだから器用だよな」
「姉貴に教わったんですよ」
 若島津は何でもない事のようにこたえて微笑む。
 綺麗な顔だった。
 日向はちょっと見惚れてしまう。
 最近彼はなにか変わっただろうか。
 いや、変わったのは日向のほうだろうか。
 自問自答しながら囁いた。
「髪、長くなったな」
「そうですね」
 若島津の受け答えは普通だった。
 変なのは日向のほうだ。
 日向は彼の背後に立ったまま動かない。
「なんですか?うまく止まってませんか?」
 ぶっきらぼうな視線を感じて若島津は聞いていた。
 日向はまだ動かない。
「……いや、ちゃんと止まってるぜ」
 くぐもった声が寮の室内に低く響く。
「ならなんで突っ立って…って、ひゃっ」
 若島津は突然変な声を上げてしまっていた。
 うなじになにかが触ったのだ。
 ぬるりとしたなにか。
「日向さん、なにして……」
 右手で首筋を押さえて立ち上がる。
 もしかして舐められた?
 思い至って彼の全身が震え出す。
「お前のうなじ綺麗だな」
 首筋を晒すのはなにも初めてではないというのに、なんて感想だ。
「白くて、つるっとしてて、俺の肌とは全く違うな」
「なにを今さら」
 日向の日本人離れした褐色の肌と比べたら、誰だって違う色味だろうに。
「なんか今日はお前のうなじがすごく気になってさ」
「気になったら、その、そんなことするんですか?」
『舐めるんですか』とは聞きづらくて、たどたどしい問いかけになる。
「いや、本当に、綺麗だしうまそうだからなんとなく」
「なんとなくって、なんとなくって、うわー!」
「叫ぶなよ」
 隣りの部屋から級友がすっ飛んでくるかもしれない。若島津は口を噤んだ。
「うまかったぞ」
「うまいって……、勘弁して………」
 なに言ってくれちゃってるんだ、この人は。
 非難する視線を気にすることもなく、日向はのんきに言い放つ。
「また舐めさせてくれ」
「なっ!!」
 とんでもない申し出に衝撃を受けていた。
 そして、うなじを両手で守ったまま若島津は勉強机に突っ伏したのだ。
No.1125 - 2020/11/09(Mon) 23:38:38
尊敬 / なるみ



 寮の部屋が一緒になったのは偶然ではないだろう。
 日向の怖さと粗暴さとに恐れをなして、同郷で気心の知れた若島津を同室に配置したものと思われる。
 実際には日向はフィールド以外では暴君ではないのだが、イメージが悪すぎた。
 結果として居心地がいいのだから文句はないのだが……。
「なあ、お前いつから俺のことさん付けで呼ぶようになったんだ」
 窓辺に向かって据えられた机には教科書が広げられている。
 横に並んで腰かけている若島津に日向は聞いた。
「それは……中学に入ってしばらくしてからですかね」
「それで、先輩を不愉快にさせてまで呼び続けてる訳か」
 少しのため息。それを拾って若島津は綺麗な微笑みを見せる。
「日向さんを尊敬してるからですよ」
 すました顔で言ってのけた。
「なんだよ尊敬って。同じ年じゃねえか」
 上半身を後ろに反らして頭をかく。居心地悪そうだ。
「お前、そうやって時々からかってくるよな」
「からかってませんよ。本気で尊敬してるんです。サッカー選手としてだけでなく、ひとりの人間として凄いと思ってます。俺は日向さんの生き方が好きです」
 真っすぐな視線で彼は日向を見る。
「どういう反応したらいいんだ。まあ、なんて言うか、お前の期待に応えられる人間になるよう努力するさ」
 日向はサッカーでも勉強でも生き方でも鍛錬を欠かさない。とてもストイックだった。
「そういうところも好きですよ」
 若島津はなぜだかくすくすと笑っている。今度は間違いなくからかっているようだった。
 けれど日向は不快には感じず、むしろ目の前のその顔がかわいくて、自分の鼻先を軽くかいた。
「若島津、ちょっとこっち寄れよ」
「はい」
 手の先で招くとすんなりと顔を寄せてくる。
 尊大な態度も苛立ちも彼はいつも受け入れる。
 不思議だった。
 彼ほど自尊心の高い男が自分には付き従ってくれる。
「俺のなにがお前の気に入ったんだか知らねえが、俺はお前を失望させないからな」
 宣言するの姿の雄々しさに若島津は目を細めた。
「日向さん、そういうとこ好きですよ」
 まだからかいを続けているのかと思いきや、意外なことに彼の頬は赤みを帯びていた。
「俺もお前が好きだぜ」
「日向さん……」
 さらに赤く染まった頬に日向の手はそっと触れる。
 構えたところもなく自然な流れで、彼らは初めてのくちづけを交わしていた。
No.1124 - 2020/10/15(Thu) 23:09:30
挨拶とお知らせ / なるみ

たまには挨拶とお知らせを。ほとんど上に書いてあるけど。

こちらはDeepCollectionの掲示板です。
つぶやきとSSなど、お楽しみいただければ幸いです。
感想などいただけますと励みになりますので、こそっとよろしくお願いします。
下部の数字から過去ログに飛べますのでそちらもご覧ください。
当方数十年来のこじけんファンです。細々とですがずっと書き続けております。
たまに痛い話もありますが、そういうの好きなのでどうかご理解ください。人目に触れる場所なのでこれでも自戒はしてます。
結局のところパソコンの不調はLANケーブルの接続不良らしいです。繋がる時と繋がらない時があります。
それでも9月はSS3本の更新でした。
どうぞ読んでやってください。




陸内(くがない)なるみ
No.1123 - 2020/09/29(Tue) 22:56:27
グラヴィティ / なるみ
 あの夏は忘れられない。
 ホイッスルが鳴って、最後に見上げた空は青く美しかった。
 隣には、彼が尊敬し憧れる男の姿があった。
 二人ともボロボロだった。
 精一杯戦った。
 悔いはないと若島津は思う。
 それでも………。
 それからずっと日が経って、肌寒さを覚える季節になった頃、彼は悩み事を抱えて難しい顔をしていた。
 親を説得しなければならないからだ。
 彼は東邦学園への中学受験を考えていたのだ。
 成績は悪くない。
 不測の事態が起こらなければ合格するだろうという先生の見立てだった。
 けれど父親の顔が脳裏に浮かぶ。
 彼の意志は決まっていた。
 問題は頭の固い父親を説得出来るかということだった。
 彼は戦いたかった。
 勝ちたかった。
 あの興奮をもう一度味わいたかった。
 それまで知らなかったものを手にし、確かで高貴なものを掴みとりたかった。
 若島津は先生との話を終えて職員室の扉を開ける。
「先生となに話してたんだ」
 扉の横で腕組みをした日向が彼を待っていた。
 まるで彼の悩みを見抜いたような鋭い眼光で、怒ったように日向は言う。
「来いよ。東邦に」
 引力さえ感じる低い声。
 若島津は息を飲む。
「俺と一緒に戦え」
 それは希望でもなく、懇願でもなく、むしろ命令に近いものだった。
 だが、不思議と反抗する気は起きない。
 日向は彼にとって特別だからだ。
「受験、落ちたら許さねえぞ」
 日向の腕がらしくない馴れ馴れしさで肩を抱いてくる。
 その途端、彼の繊細な胸はざわめいた。
 特別な男から与えられる熱。
 信頼されているという手応え。
 彼が思うように日向もまた彼を必要としてくれているのだ。
 若島津は胸を熱くする。
 ああ、この男と共に戦いたい。
「行きますよ、絶対」
 強気に言ってのけるのを頼もしい目が見つめている。
「あんたと一緒に戦います」
 日向は満足げに笑うと頭を彼の肩にもたせ掛けて来た。
 戸惑う彼の頬に硬い髪の毛が触れる。
 まさか泣いている訳ではないだろう。
 ただ感情があふれているだけだ。
 彼を思っているだけだ。
「勝とうな、絶対」
 吐き出した言葉と吐息とに、若島津は胸の鼓動を激しく乱していた。
No.1122 - 2020/09/29(Tue) 22:13:13
久しぶり / なるみ

復活というほどではありませんが久しぶりに書くことが出来ました。2作一度の更新は珍しいですね。
両方ともどこかで読んだような……というのは気にしないようにお願いします。
配線工事で壁をぶっ壊すようなことにはならずに済みましたが相変わらず不安定です。
それではまた。
No.1120 - 2020/09/12(Sat) 00:03:42
欲しいんだ / なるみ




 両想いだと知ったならすることはひとつだ。
 俺たちは寮の狭いベッドの中で抱き合っていた。
 キスは楽しめた。触るのも気持ちよかったし、触られるのももちろん良かっただろう。
 互いを確かめることがこんなに興奮するなんて……。その手応えは若島津も同じだったはずだ。
 しかし今、部屋には苦し気な呻き声が満ちていた。
「ん…、んんっ、くう……」
 白く伸びやかな足を抱え上げた状態で俺は腰を止めている。
「どうすりゃいいんだ」
「いいから気にしないで」
「ほんとにいいのか。切れちまうぞ」
「いいから」
 怒ったような男らしい声。
 それが俺の困惑を吹き飛ばした。
 本人がいいって言うんだからいいんだよな。
 俺は、中途半端に先っぽを入れただけだった性器を、ぐっと前に押し出す。
 つつましやかな蕾を一息に押し開いて行く。
 肉が肉に包まれる快感。
 俺は痺れた。
「ううっ、気持ちいい……」
「い。い…たい……」
「おい」
 慌てて引き抜くとまた「痛いと」悲痛な声が上がった。
「大丈夫か」
「………」
 そこを犯される感覚は俺には想像も出来ない。
「おい」
 心配でそこを覗き込むと少しだが赤い血がついていた。
「無理だろ、これは」
 言いながら抱えていた足をおろす。
「無理じゃないっ」
 悲鳴のような響き。それは意地だけで言ってるようだった。
「だけどお前」
「うるさい! いいんだよ、入れろよ」
 大胆な要求を乱暴な口調で若島津は放った。
「俺、欲しいんだ。あんたが欲しいんだ」
「若島津」
「身体の中であんたを感じたいんだ。だから……」
 若島津は目を閉じ、ぎゅっと唇を噛みしめて覚悟を示す。
 『だから入れて』と請われれば、俺だってエンジンがかからないはずがなかった。
「いくぞ」
 言葉通り再び挿入すると若島津の胸は震え、眼からは真珠のように可憐な涙が伝い落ちる。
「若島津」
 罪悪感と、少しでも気がまぎれるようにと、癒す舌で唇を舐める。
 それから涙も舐めとった。少し塩っ辛い。
「泣くなよ」
 俺はそっと頭を撫でた。
 けれど涙は止まらない。
 若島津は苦し気に言葉を紡いだ。
「これは……痛くて泣いてるんじゃない」
 睨むような、挑むような、そんな眼をしていた。
「あんたと繋がれたから……、感動したから……泣いてるんだ」
 その言葉はきらきらと輝いて俺に届く。
 胸を打たれた。
「俺のほうこそ感動してるぜ」
 そして囁くのだ。
「ありがとな、若島津。好きだぜ」
 俺の気持ちを込めた囁きに、若島津はまた一筋綺麗な涙をこぼしていた。
 






 若島津が「あんた」という言い方をするのは、私にしては珍しいと思います。こういうのもたまにはいいですかね。
No.1119 - 2020/09/11(Fri) 23:54:35
あふれる / なるみ





 男を相手にするなんてありえないと思っていた。
 しかも自分が抱かれる側だなんて。
 だから彼は、日向に押し倒された時も抵抗しようとしたのだ。
 しかし日向には敵わなかった。
 日向だけはダメだった。
 逃げ切れない。
 逃がしてはくれない。
 日向にそういう目で見られること、そこには絶望的でねじれた興奮があった。
「若島津……」
 彼が振り上げたこぶしは、低い声で名前を呼ばれただけで引き下がった。
 申し訳程度の反攻だった。
 それを見て、虎のように獰猛な男は、冷たくさえ感じる笑いを見せる。
「この俺に抵抗するのか、お前が」
 言葉でも犯される。
 そして唇のぬくもりでも犯された。
 くちづけを繰り返しながら日向は大胆に彼の股間をもてあそぶ。
「……っ、…うっ」
 日向に求められている。
 その事実は彼の性を脅かした。
 心惹かれる男からの深い愛撫。
 隠しきれない官能が彼の性器を熱くする。
「あっ、ああっ」
 日向とのSEX。
 身体の内側から快楽があふれて来るようだった。
No.1118 - 2020/09/11(Fri) 22:02:16
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