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掲示板 DC

こちらは、陸内(くがない)なるみのDeepCollectionの掲示板です。
2022年4月から作品発表をピクシブに移行しておりますので、この掲示板では近況や更新情報などを載せていくことになります。
 pixiv:80426221 です。

絆創膏 / なるみ





「若島津、これちょっと貼ってくれ」
 差し出されたのは大きな絆創膏。風呂上がりの背中。肩甲骨にそっての派手な擦過傷。傷に貼ってくれと頼まれる。
 いつもならこんなものいらねぇと言いそうなところだが、今日の傷は大きすぎた。裸でねたならシーツを血で汚してしまいそうで、指示された通り貼ったほうがいいと判断したらしい。
 無造作にさらされた逞しい浅黒い肌に、若島津はドキッとする。
「薬、塗りますね」
 何気ない顔で、渡されたチューブから薬を押し出した。
 血の止まってない部分がある。
 そっと指で傷に触れた。
「いて」
「すいませんっ」
「ああ、かまわねぇ。さっさとやってくれ」
 少し渋い顔をしているのはやはり染みるからだろう。
「………」
 処置をすませ、若島津は日向の素肌の肩を軽く叩いた。
「はい。完了です」
「すまねえな」
 日向は振り返って若島津に相対する。日向の視線はいつもまっすぐだ。
「気を付けてくださいね」
 彼は顎を引きうつむきがちになる。何とも言えない感覚。微妙な息遣い。速くなる胸の鼓動。
 日向の眼がまともに見れなかった。
「なんだお前、眼が潤んでるな」
「え」
「俺のヌードに欲情でもしたか」
 日向らしくない軽口だった。
 若島津が嫌うタイプのからかい。
 瞬間しまったと慌てた日向だが、謝罪する前に若島津の表情の変化に気づく。
 彼は真っ赤になって震えていた。
「どうした」
「なんでもありません」
「お前震えてるぞ、それに顔も赤い」
「………」
 困って視線が揺らぐ。若島津はこの場から逃げ出したくなっていた。
「お前ほんとに俺を見て欲情したのか」
「違います」
「違わねぇだろ、やばい顔してるぜ。やっちまってもよさそうな。誘ってるみたいな顔だ」
「やっちまってって……」
 たとえがヤバすぎる。
 生々しい言葉は彼の脳裏にエロティックな場面を浮かび上がらせた。
 彼は日向を好きなのだ。ずっと恋焦がれているのだ。
 そのうえこんな風に日向と性的な話をするのなんて、はじめてのことだった。
 特別で卑猥な感じがする。
「そういうかわいくていやらしい顔されたら、俺だって欲情しちまうよ」
 からかいだか本気だか分からない日向の台詞を受けて、彼は一歩を引いた。
 自分の身体の熱さを知られたくない。だというのに日向は容赦がなかった。
 彼が引く分だけ同じように詰めて来る。
 あっさり壁に背中がついて、若島津は息を飲んだ。
「興奮してんだろ。いいぜ、俺は」
「なにがですか」
「お前がされたいこと、してやるよ」
 若島津は反射的に泣きそうになる。
 そういう事じゃない。
 彼は心が伴わないのは嫌なのだ。
 興味であしらわれるのも、憐れまれるのも、どちらも嫌だ。
 日向が自分に恋してくれたらいいのに。
 自分が好きなのと同じくらい日向も自分を好きになってくれたらいいのに。
「なに泣いてんだ」
「泣いてなんか……」
「悪かった。からかったみたいになったけど、違うんだ。つまり俺は、なんかうれしくて……。お前の望みをかなえてやりたいって意味だ」
「日向さん」
「お前の狼狽した顔とか、焦った声とか、恥じらった感じとか……、みんな俺を興奮させた」
 そして日向は彼の耳元に唇をよせて来る。
「いつも強気なお前がそんな顔するのも、泣くのも、俺に取っちゃ想定外で……。欲情したんだ」
「嘘」
「信じてくれ。俺は本気だ。真剣だ。証拠を見てみるか」
 証拠ってなにをと言いかけた彼の前で、日向はジャージの下を太ももまで引きおろした。
 白い下着の中心部が確かに大きくなっている。
「お前のほうはどうなんだ」
「え、え、その、あの」
 慌てる彼の股間に日向の手が触れて来た。
 しびれが走る。
 唇がわななく。
 布の上からでも分かる熱に日向は嬉しそうに口元を歪めた。
「やっぱり俺に欲情してたんだな」
 さらに力を込めて股間をいじられて、若島津はどうにもならなくなる。
「日向さん。どういうつもりで、ん、あ……」
「お前分からないのか」
 彼は唇を噛んだ。
 まさかという期待と絶望とで頭はぐちゃぐちゃだ。
「身体が教えてるだろ。お前は俺に、俺はお前に、欲情したってことだ。難しく考えるなよ。両想いってことだろ」
 両想い。
 あまりに幸せな言葉に身体から力が抜ける。
「若島津好きだぜ」
「日向さん……、あ、あ、……ああっ」
 彼は『俺も好きです』と胸の奥でつぶやいた。
 気持ちが通じたかのように日向が笑う。
 若島津もまた幸福感と快楽と酔った。
「そんなに緊張するなよ。大事にしてやるから」
「うっ」
 日向の手は彼の股間を下から救い上げるような位置になり、彼はその行き過ぎた戯れから逃れることができなかった。
No.1147 - 2021/05/29(Sat) 22:57:48
気持ちいい / なるみ



 寮の消灯時間を過ぎて俺達には大事なひとときが訪れていた。
 先日はじめて身体を重ね、いわゆる蜜月と言ってもいい時期なのに、若島津は行為にいまだ抵抗感を持っているようなのだ。
 男同士の行為は禁忌だと、結実のないSEXは認められないと、いやになるほど古めかしい頭をしていた。
 俺は若島津の内股にいやらしく舌を這わせている。
 俺の肩に支えられて宙に浮いた足先が、感じてピンと伸びていた。
「もういやだっ……て。日向さん、あ……ん、んん、そういうのダメ………」
「『ダメ』じゃなくて『いい』んだろ。ほら」
「ああっ」
 探求心の塊のような俺の舌は、目の前で屹立しているものの先端をぺろりと舐める。
「あー」
 切羽詰まった悲鳴を上げ、腰を淫らにくねらせ、どう見ても欲しがってる様にしか見えなかった。
「お前いやらしい格好してるぜ。自覚してるか」
 下腹の微妙な動きに煽られた俺の息は熱く深い。
 シーツの波に縫い留められた白い姿態。
 若島津は罪深い魔物のようだった。
 夜になり、俺に組み敷かれると、本人の意思を裏切って魔的な表情を表すのだ。
 昼のすました顔とは真逆の淫乱な顔。
 どんな男だって胸を射抜かれてしまうに違いない。
 興奮する。
「あ……。いやだ、そこ、舐めないで」
「気持ちいいだろ、遠慮すんな」
「俺、すぐイっちゃうから、そういうのいやだ。恥ずかしい……」
 顔を赤らめての懇願も俺にとっては誘い文句だ。
「いいよ。何度でもイケよ。気持ちいいだろ。たっぷり味わえ」
 指でくちゅくちゅとCENSOREDを弄びながら先端の溝を吸い上げる。
 白い肌が細かく震えた。
「ダメ、ダメェ……」
 儚い声がベッドの上で繰り返しあがる。
「気持ちいいの、ダメ」
 なんだよ。気持ちいいって認めてるんじゃないか。
 白濁が伝って来たCENSOREDに俺はさらに作為を加える。
 根元から先端へ、指の腹で皮膚を押し上げる。
 ぬるぬるしていた。
「これ、気持ちいいのか」
「あ、ああ、あっ」
 若島津の顔が、声が、精神が少しづつほどかれる。
 後ろを探り小穴に中指を沈めた。
「いやっ」
 我慢できないといった声を出しながら、尻が赤裸々に揺れる。
 俺は身体を進めた。
「俺のちんちん入れて欲しいって言えよ」
「………」
「若島津。もっと気持ちよくしてやるから言うこときけ」
 火照って赤い頬をするりと撫でると俺は腰を密着させた。
「気持ちいいのは誰だって好きだぜ。お前も素直に味わえよ」
 命じた唇で柔らかい皮膚に所有の印を刻む。
「日向さん……」
 まだ抵抗する気なのか、涙目になっている若島津に唇を押し付ける。戸惑っている舌を説得するような熱意で吸った。
「……っ」
「若島津。俺を悪者にしていいから。お前はなにも卑屈になることはないから……気持ちいいこと受け止めてればいいから……」
 俺の舌は肌を滑り喉元から胸へと下がっていく。
 訳が分からなくなるくらいの快感を、蕩けて正気を失くすくらいの愛撫を、白い身体の上から降り積もらせる。
「日向さんっ、あ、あああ!」
 身体中愛され意識も翻弄されて、若島津はとうとう俺の肉欲をその身に迎え入れた。
No.1144 - 2021/04/18(Sun) 00:53:10
自分のペースで / なるみ
実は、病気や手術があって職場のお休みもらったり、環境がかわったりで、ここ三年くらいまさに怒涛の日々だった訳です。
でもなんとか掲示板でのSS発表は続けて来られましたし、これからも続けたいと思っています。
自分のペースで月に一二本書けたら上出来。そんな気持ちで無理せず継続して行けたらいいな。
これからもおつき合い頂ければありがたいです。
No.1129 - 2020/12/11(Fri) 23:06:31
Re: 自分のペースで / S
「挑発」、いつになく欲望をむき出しにした若島津にヒリヒリしました。たまには日向を追い詰めて違った意味で悩ませるのもいいですね!

今年も萌えをたくさん頂きありがとうございました。月に1〜2本でもなるみさんのSSを拝見できれは幸せです!無理せずマイペースで!お体に気を付けてなるみさん自身が楽しんで活動されて下さいね。これからも楽しみに拝見させていただきます(^^)
No.1130 - 2020/12/12(Sat) 10:46:18
S様 / なるみ
S様こんにちは。いつも読んで下さってありがとうございます。
「挑発」、ちょっと珍しいテイストでお届けいたしました。色々なタイプのお話が書けるようになりたくて日々鍛錬しております。様々に料理出来るのでコジケンは本当に奥深いと感じます。だからやめられないんですよね
もっとスピード感をもってSSが量産できたらいいのになぁ。志は高く、けど無理はせず、楽しんで続けられたらいいと思います。
S様もお身体に気をつけてお過ごし下さい。では。
No.1131 - 2020/12/12(Sat) 21:42:14
挑発 / なるみ





 日向の不機嫌は続いていた。
 ここのところ常にピリピリしているので周りも近寄ってこない。
 けれど一番近くにいる人間は平気な顔をしていた。
 いや、日向の不機嫌の元凶は彼だったのだ。
「俺をこんな風に悩ませやがって」
 同室の彼らは顔をつき合わせない訳にはいかない。
 日向の絞り出した声を若島津は余裕で交わす。
「俺はなにもしてないですよ」
「ふざけるな」
 苛立ちが眉間に皺をよせさせる。
「俺が日向さんを好きだって言ったから、それでそんなに揺れ動いてるんですか」
 先日日向は彼から告白された。
 友情や親愛ではなく、愛情と欲望とを抱えていると。
 まっすぐに前に向かって行く日向に、振り返って抱きしめて欲しいのだと。
 そう望んだ。
 彼は『俺はおかしいんです』と平静な表情で言った。
『男なのにあんたに抱かれたいんです』と。
 ずっと仲間として過ごし共に戦ってきた友からの告白は、日向の常識をひっくり返した。
 そして自身の中に捉えようのない感情を見つけてしまったのだ。
 どうしたらいいか分からないそれが、戸惑いと苛立ちとを生んだ。
「男同士なんだぞ。そんな簡単に受け入れられることか」
「日向さんがそんなに繊細だとは思わなかったけど」
 そこで深く重いためを作って、若島津は冷えた視線を流す。
「いまの日向さん、滑稽ですよ」
「このっ」
 日向はモラリストだ。
 父親をはやくに亡くしたせいで責任感が強い。
 家族というシステムに重きを置いている。
 誰か優しい女と結婚して子供をもうけるのが当然だと思っている。
 早く母親を安心させるのが当たり前だと考えているのだ。
 そんな思考に若島津の捨て身の告白は大きな罅を入れた。
 若島津は、自分の気持ちが受け入れられないだろうという覚悟をしていた。それでも伝えたかった。日向を手に入れたかった。だから、捨て鉢になって吐き出してしまったのかもしれない。
 彼の無謀な告白。
 それは日向にすぐに否定されて終わるはずだった。
 呆れられ、ばかばかしいと投げ捨てられるはずだった。
 なのに日向は真剣に悩んでくれた。
 だから彼はわずかな可能性があるのを知ったのだ。
 嫌われてもいい。一度だけでいい。
 日向と肌を合わせたい。
 彼は欲望を消すことが出来なかった。
 そして日向という孤高の存在に付け込むことが出来るかもしれないと期待した。
「俺を好きかどうか分からないんですよね」
 痛みのある言葉は彼の口からするすると零れる。
「だったら一度試してみたらどうですか」 
「どういう意味だ」
「俺を抱いてみてください。そうしたらいくら鈍いあんたでも自分の心が分かるはずです」
 なによりもいざとなって肉体が反応するかがバロメーターでもあるだろう。
「よせよ」
 唾を飲み込んだ喉が動く。
 しかし日向は逃げはしなかった。
「理解したいんでしょ。俺のことも。自分のことも」
 そっと手をのばして、彼は日向の浅黒い頬に触れる。
 吐息が近づいた。
 どこか不思議で、魔的で、淫靡な空気。
 若島津の瞳は悩ましく扇情的に潤んでいる。
 彼らが今までに纏ったことのない生々しいそれが、寮の部屋に重々しく沈む。
 若島津は乾いてしまった唇を舌先でゆっくりと濡らした。
 胸に興奮と痛みとを覚えている。
 ジャージのジッパーを下ろして日向の手を素肌の喉元に招いた。
 こんな真似が出来るなんて思っていなかった。
 まさになりふり構わずだ。
 いやらしくさえ思える囁きで彼は思い人を挑発する。
「欲しいんです、日向さんが」
 日向の眼が獣の眼のようにぎらつき出すのを夢のように感じながら、彼は恥ずかしげもなく淫猥な挑発を続けたのだ。
No.1128 - 2020/12/11(Fri) 00:04:51
盗む / なるみ





 若島津は、日向が横合いから自分を見ていることに気づいて、勉強していた教科書をぱたりと閉じた。
「なにじっと見てるんですか」
 我知らず警戒したような声を上げる。
「いや、お前かわいい顔してると思って」
「かっ」
 瞬間彼は頬を火照らせた。日向の視線から逃れようとノートで顔を隠す。
「ばかなことを」
 非難するのをなにげにいなして、日向は考えを廻らしながらいつもより饒舌に続けてきた。
「いや、小学校の時はなんかもっときつい雰囲気があったけど、中学生になってから穏やかになったというか。もちろん覇気が減ったわけじゃない。ゴール前では相変わらず頼りになってる。けど、なんか俺が見る限りではお前は俺に対してだけ特別で柔和な顔を見せている。それがすげぇかわいい」
「そんなことは……」
 意外な観察眼と大胆な指摘とに驚き、彼は眼を大きく開ける。
「なんだよ。自覚がないのか」
「……」
 自覚はなかった。
 でも、日向の言う通りなのかもしれない。
 日向のことを自分は特別に見ている。
 それがそんな雰囲気を醸し出してしまうのだろうか。
 戸惑う彼の顔に不意に影が差す。
 日向が立ちあがって間合いを詰めてきたのだ。
「日向さん」
「俺はうぬぼれてもいいだろ」
 疑問符でもなく、許可でもなく、それは宣言だった。
 慣れているのではないだろうが堂々とした仕草で、彼の顎を指先で持ち上げてくる。
「なにを」
「だまれよ」
 命じられて反射的に噤んだ唇は、あっけなく日向に盗まれてしまったのだ。
No.1127 - 2020/11/25(Wed) 23:23:20
ため息 / なるみ







『なんであんなことしちまったんだろう』
 日向は考えていた。
 若島津はすごく驚いて顔を赤くしていたが、よく考えればそれも無理はない。
 彼の綺麗な髪が気になって、なんとなく触れたり頭をポンポンと撫でたりすることは、今までにもよくあった。いづれも弟妹達にするような親しみ方だ。そう思っていたのだがどうやら違ったらしい。
 過剰なスキンシップだったのだと彼の慌てふためいた様子から察して、さすがの日向も気まずく思った。
 別にからかった訳じゃない。
 思ったことをしたまでだ。
 思ったことを言ったまでだ。
 本気で舐めたいと思ったのだから。
 最終的に逃げるように部屋を出て行った若島津のうなじは真っ赤で、痛々しさすら感じさせた。
 なのに、不埒なことに、それは日向の持つ獣性を刺激したのだ。
 凶悪な感情が頭をもたげた。
 熱が身体中を駆け巡った。
 食らいつきたいと思った。
 舐めるよりもさらにレベルアップしていることに自分ながらに呆れる。
 若島津が部屋に戻ってきたらなんと声をかけようか。
 やっぱり『悪かった』が無難だろう。
 それとも正直に、欲望の赴くままに懲りずに『舐めさせてくれ』だろうか。
 でもたぶん『お前が欲しい』というのが正解だろうと感じている。
 もっと触れたい。
 もっと大胆に。
 もっと深く。
 心の底から彼を欲しがっている自分がいる。
「若島津……」
 青い情熱を持て余して日向はらしくないため息をついていた。
No.1126 - 2020/11/14(Sat) 21:45:46
鉛筆 / なるみ






 願掛けのように髪を伸ばし出してから随分になる。
 普段、勉強の時などはゴムでまとめて邪魔にならないようにしているのだが、さっきから肝心のゴムが見当たらない。
 仕方なくペン立てから鉛筆を引き抜いた。
 手で髪をまとめてひねり上げ、その中心をすくい取って鉛筆を器用にくるりと回す。
 かんざし代わりに応用したのだ。
「お前よくそれで髪が止まるな」
 鉛筆でまとまった後頭部をしげしげと眺めて、日向は感心して言った。
「一本で止めちまうんだから器用だよな」
「姉貴に教わったんですよ」
 若島津は何でもない事のようにこたえて微笑む。
 綺麗な顔だった。
 日向はちょっと見惚れてしまう。
 最近彼はなにか変わっただろうか。
 いや、変わったのは日向のほうだろうか。
 自問自答しながら囁いた。
「髪、長くなったな」
「そうですね」
 若島津の受け答えは普通だった。
 変なのは日向のほうだ。
 日向は彼の背後に立ったまま動かない。
「なんですか?うまく止まってませんか?」
 ぶっきらぼうな視線を感じて若島津は聞いていた。
 日向はまだ動かない。
「……いや、ちゃんと止まってるぜ」
 くぐもった声が寮の室内に低く響く。
「ならなんで突っ立って…って、ひゃっ」
 若島津は突然変な声を上げてしまっていた。
 うなじになにかが触ったのだ。
 ぬるりとしたなにか。
「日向さん、なにして……」
 右手で首筋を押さえて立ち上がる。
 もしかして舐められた?
 思い至って彼の全身が震え出す。
「お前のうなじ綺麗だな」
 首筋を晒すのはなにも初めてではないというのに、なんて感想だ。
「白くて、つるっとしてて、俺の肌とは全く違うな」
「なにを今さら」
 日向の日本人離れした褐色の肌と比べたら、誰だって違う色味だろうに。
「なんか今日はお前のうなじがすごく気になってさ」
「気になったら、その、そんなことするんですか?」
『舐めるんですか』とは聞きづらくて、たどたどしい問いかけになる。
「いや、本当に、綺麗だしうまそうだからなんとなく」
「なんとなくって、なんとなくって、うわー!」
「叫ぶなよ」
 隣りの部屋から級友がすっ飛んでくるかもしれない。若島津は口を噤んだ。
「うまかったぞ」
「うまいって……、勘弁して………」
 なに言ってくれちゃってるんだ、この人は。
 非難する視線を気にすることもなく、日向はのんきに言い放つ。
「また舐めさせてくれ」
「なっ!!」
 とんでもない申し出に衝撃を受けていた。
 そして、うなじを両手で守ったまま若島津は勉強机に突っ伏したのだ。
No.1125 - 2020/11/09(Mon) 23:38:38
尊敬 / なるみ



 寮の部屋が一緒になったのは偶然ではないだろう。
 日向の怖さと粗暴さとに恐れをなして、同郷で気心の知れた若島津を同室に配置したものと思われる。
 実際には日向はフィールド以外では暴君ではないのだが、イメージが悪すぎた。
 結果として居心地がいいのだから文句はないのだが……。
「なあ、お前いつから俺のことさん付けで呼ぶようになったんだ」
 窓辺に向かって据えられた机には教科書が広げられている。
 横に並んで腰かけている若島津に日向は聞いた。
「それは……中学に入ってしばらくしてからですかね」
「それで、先輩を不愉快にさせてまで呼び続けてる訳か」
 少しのため息。それを拾って若島津は綺麗な微笑みを見せる。
「日向さんを尊敬してるからですよ」
 すました顔で言ってのけた。
「なんだよ尊敬って。同じ年じゃねえか」
 上半身を後ろに反らして頭をかく。居心地悪そうだ。
「お前、そうやって時々からかってくるよな」
「からかってませんよ。本気で尊敬してるんです。サッカー選手としてだけでなく、ひとりの人間として凄いと思ってます。俺は日向さんの生き方が好きです」
 真っすぐな視線で彼は日向を見る。
「どういう反応したらいいんだ。まあ、なんて言うか、お前の期待に応えられる人間になるよう努力するさ」
 日向はサッカーでも勉強でも生き方でも鍛錬を欠かさない。とてもストイックだった。
「そういうところも好きですよ」
 若島津はなぜだかくすくすと笑っている。今度は間違いなくからかっているようだった。
 けれど日向は不快には感じず、むしろ目の前のその顔がかわいくて、自分の鼻先を軽くかいた。
「若島津、ちょっとこっち寄れよ」
「はい」
 手の先で招くとすんなりと顔を寄せてくる。
 尊大な態度も苛立ちも彼はいつも受け入れる。
 不思議だった。
 彼ほど自尊心の高い男が自分には付き従ってくれる。
「俺のなにがお前の気に入ったんだか知らねえが、俺はお前を失望させないからな」
 宣言するの姿の雄々しさに若島津は目を細めた。
「日向さん、そういうとこ好きですよ」
 まだからかいを続けているのかと思いきや、意外なことに彼の頬は赤みを帯びていた。
「俺もお前が好きだぜ」
「日向さん……」
 さらに赤く染まった頬に日向の手はそっと触れる。
 構えたところもなく自然な流れで、彼らは初めてのくちづけを交わしていた。
No.1124 - 2020/10/15(Thu) 23:09:30
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