 | * 太陽の影 * 武井信夫 作
−西暦2026年1月19日(月) 文化厚労賞受賞作品−
沈みかける太陽をバックに土煙を上げて局地戦を指揮するローマ兵団長ロト。
相手はギリシア兵だった。
剣を振り回し、槍で突き、弓で撃ち、大変な戦いとなった。
ギリシア兵は屈強な兵士たちで、絶対に音をあげない。
人間のこんな死に方を数多く見ているロトは、その知識量の多さと頭の良さで、ある日、気がついた。
愚かなことをしていると。
自分の生活の安定をさせる、仕事上、という理由で戦ってきたが、何か大いなる闇を推測した。
古代の書物を読み漁り、石板を読み、ロトは こんなはずがない。人間はおかしい。
頭は決して悪くはないはずなのに一番戦う生き物だ。
しかし他の国、ローマやギリシア以外では平和がローマの治安により続いている。
なぜそのようなことをせねば、平和にならぬのか。
バビロニアの書物に「 人は悪しき者の思いで行動している 」と読み取れた。
ロトは怒った。
「 おもちゃにされているわけか 」
何者がこんなことを。
ロトは恋人のエステラに朝食をつくってもらって食べながら聞いた。
「 なにが人間をこのように戦わせているのか。 荒らぶらせているのであろうか 」
エステラは考えた。
「 悪い人がいるのかもしれないわ 」
ロト「 もっと書物を漁ってみることにしよう 」
エステラ「 ご近所さんの占い師がね、東のほうから何か悪いものが流れてくると最近言ってるの 」
ロト「 当たるのか 」
エステラ「 はい。何でも、遠く離れた犬の場所までわかるそう。それで主人と再会できるんだって 」
ロト「 では、たずねるか。案内頼む 」
二人は普通の民家に歩いて行った。
民家の中では若い女性がお茶を飲んでいた。
ロト「 悪いものが流れてくるとはどのようなものだ 」
占い師ビアンカ「 それは人と人との間に乱れをおこすチカラとでも申しましょうか 」
ロトとエステラは自宅に戻り、ロトは言った。
「 よし!皇帝に志願兵を頼み征伐してくる。大軍では行けぬ。動向を悟られるからな 」
エステラ「 悪い予感がしました。あなたは家を空けて危険なことを 」
ロト「 鋭いな。エステラ 」
エステラとロトは立ったまま抱き合って深い口づけをした。
ロトはエステラに手伝ってもらい身支度をして皇帝のもとへと向かった。
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ロトは皇帝の前に立った。
ロト「 この世界は何者かに操られ乱れていると確信しました。4名の志願兵と私で調査をしてまいります 」
皇帝「 うむ。わかった。好きなものを装備し、必要なものを持っていけ。そしてローマの通行証を持って行け。我々の区域では買い物に不自由しない 」
ロトはよく切れそうな反った片手剣を背中に吊るした鞘にいれ、槍を持たせた兵士たち三人と徒歩で東のほうに旅に出た。
ロトは女占い師ビアンカに同行を頼んだ。
ビアンカは食事の手配や兵士やロトの性処理をよく行い、勘を研ぎ澄ませて情報を皆で集めて30年が過ぎ、ローマの通行証も効き目がない所へとやってきた。
皆、相応に歳をとり、ようやくたどり着いた。
通称「 魔殿 」
山の上から入り組んで整備された道が見え、遠くに広く大きく長大な階段の先に丸く黒色で紫線模様が描かれた丸い歯車のような結界が三角形にみっつ( 下に二つと上に一つ )その周りには光の鎖が巻き付けられて動いて三角を回っていた。
階段の左右の裸の崖山には無数の竜の形をした雷が出たり消えたり泳いだりしている。
3人の兵士とビアンカとロトの5人は ついに見つけたと思ったが、知っていることは、大軍などここには来られぬということ、我々だけの人数だから来れたこと、帰り道が分からぬほど入り込んで旅をしてきてしまったことだった。
食料や水も尽きる。
よく手入れをしていたロトの剣はまだ輝きを失っておらず、兵士三人の槍も同様だ。
ビアンカは老いたが美しかった。
ロト「 行かねばなるまい。戻ることは不可能だ。その途中で飢えて死ぬことになるだろう 」
黒い魔物が歩いている道を慎重に進んで行く。
戦いだしたら大変に手強そうだ。
そして山から見た入り組んだ道の絵を頼りに歩いて大階段の下へとやってきた5人。
上へ上へと昇っていく。
そして、禍々しい色の3つの巨大な歯車の結界が光の鎖で三角に縛られている。
ロト「 ここは無理であろう。ここまできたのだ。私は悔いがない。ビアンカはよく頑張ってくれた。お前たちリト、ザジ、リークの三人の男たちも 」
三人の男は髭だらけ伸び放題の顔で笑った。いつも髭を剃っているのはロトだけだった 」
食料が尽きかけ、水もあとわずか。
そのとき、空が真っ白に光り輝き、結界の周囲の闇の暗黒の力場が大嵐をおこすようにして暴れ狂い、飛び散った。
結界が内側からロトたちへ盛り上がるようにして膨らみ続け、眩しくて直視できない程の強さに白く輝く光が亀裂から漏れ、とうとう砕けた。
結界を縛って回っていた三角の鎖が大きく光を放ち、ちぎれちぎれになって砕けて飛び散った。
ロトたちは唖然としてそれを見ていたが、ひび割れた狭い隙間を目にし、ロトが言った。
「 さあ、行こう 」
5人は空いた亀裂の隙間を歩いて行った。
入った中は滅茶苦茶に建造物が散乱していた。
瓦礫の中心に背の高い青年の男が立っていた。
神「 お前たちの仕業か? 」
その男は右手に大鎌、左手に木のロッド、紫のローブ(法衣)を着ている。
息切れをおこしていた。
服はボロボロで砂埃をかぶり、怪我だらけだった。
転がりまわった後のように見えた。
ロト「 お前の名は? 」 神「 我の名はガート。この地域を統べる者なるぞ 」
ロトはガートに向かって走って剣を背中から抜いた。髭の兵士3人もそれにならう。
ガートは左手のロッドを向けてロトたち4人の動きを止めた。
ガート「 死神の鎌を食らうがよい。魂ごと消し去ってくれる! 」
ロトの首めがけて大鎌が振られた。
目も眩む光が降ってきた。
音が後からやってくる。
空からその光は来て、ガートの大鎌と体を打った。
大鎌は四散して粉々になった。
そしてガートの体を何度も何度も空を白く輝かせ、その雷に打たれるたびにガートの体はちぎれとんで少なくなってきた。
ガート「 だれの 」「 しわざ… 」
とうとう体が消え、声がしなくなった。
そのとき、空から女の声が聞こえてきた。
女の声「 あなたたち、よく頑張りました。 見事その男を見つけ出し、倒しました。 私にもそのガートという男の居場所がわからなかったものを困難な旅の末見つけてくださいました。 これで地上が少しでも平和になれば。ロトの願いでもあります 」
ロト「 その声は 」 謎の女の声「 私はラダ 」 ビアンカ「 あの声…、エステラよ。威厳があるけれど 」 ロト「 おお 」 エステラ「 そう。私の本当の名はラダ。もとの場所に帰る方法は…あなたたちは魔空空間に紛れ込んでしまいました。体はもとの場所には戻れません。魂なら呼び戻すことができます 」
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エステラは赤ん坊を抱いていた。
近所の女性が傍を通った。
「 エステラ。赤ちゃんようやく生まれたのね 」
エステラ「 この子の名前ロトにしようと思うの 」
近所の女性「 へえ、遠征討伐のあの彼氏と同じ名前ね。20才ならもう子供がいてもいいわ。ロトの子? 」
エステラ「 はい 」
エステラは涙を流して言った。
* 太陽の影 完 * |
No.25 - 2026/03/08(Sun) 21:15:57
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