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【掲示板】短編小説【趣味】

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短編小説 / GIL
* 太陽の影 * 武井信夫 作

−西暦2026年1月19日(月) 文化厚労賞受賞作品−

沈みかける太陽をバックに土煙を上げて局地戦を指揮するローマ兵団長ロト。

相手はギリシア兵だった。

剣を振り回し、槍で突き、弓で撃ち、大変な戦いとなった。

ギリシア兵は屈強な兵士たちで、絶対に音をあげない。

人間のこんな死に方を数多く見ているロトは、その知識量の多さと頭の良さで、ある日、気がついた。

愚かなことをしていると。

自分の生活の安定をさせる、仕事上、という理由で戦ってきたが、何か大いなる闇を推測した。

古代の書物を読み漁り、石板を読み、ロトは こんなはずがない。人間はおかしい。

頭は決して悪くはないはずなのに一番戦う生き物だ。

しかし他の国、ローマやギリシア以外では平和がローマの治安により続いている。

なぜそのようなことをせねば、平和にならぬのか。

バビロニアの書物に「 人は悪しき者の思いで行動している 」と読み取れた。

ロトは怒った。

「 おもちゃにされているわけか 」

何者がこんなことを。

ロトは恋人のエステラに朝食をつくってもらって食べながら聞いた。

「 なにが人間をこのように戦わせているのか。 荒らぶらせているのであろうか 」

エステラは考えた。

「 悪い人がいるのかもしれないわ 」

ロト「 もっと書物を漁ってみることにしよう 」

エステラ「 ご近所さんの占い師がね、東のほうから何か悪いものが流れてくると最近言ってるの 」

ロト「 当たるのか 」

エステラ「 はい。何でも、遠く離れた犬の場所までわかるそう。それで主人と再会できるんだって 」

ロト「 では、たずねるか。案内頼む 」

二人は普通の民家に歩いて行った。

民家の中では若い女性がお茶を飲んでいた。

ロト「 悪いものが流れてくるとはどのようなものだ 」

占い師ビアンカ「 それは人と人との間に乱れをおこすチカラとでも申しましょうか 」

ロトとエステラは自宅に戻り、ロトは言った。

「 よし!皇帝に志願兵を頼み征伐してくる。大軍では行けぬ。動向を悟られるからな 」

エステラ「 悪い予感がしました。あなたは家を空けて危険なことを 」

ロト「 鋭いな。エステラ 」

エステラとロトは立ったまま抱き合って深い口づけをした。

ロトはエステラに手伝ってもらい身支度をして皇帝のもとへと向かった。

***********************************

ロトは皇帝の前に立った。

ロト「 この世界は何者かに操られ乱れていると確信しました。4名の志願兵と私で調査をしてまいります 」

皇帝「 うむ。わかった。好きなものを装備し、必要なものを持っていけ。そしてローマの通行証を持って行け。我々の区域では買い物に不自由しない 」

ロトはよく切れそうな反った片手剣を背中に吊るした鞘にいれ、槍を持たせた兵士たち三人と徒歩で東のほうに旅に出た。

ロトは女占い師ビアンカに同行を頼んだ。

ビアンカは食事の手配や兵士やロトの性処理をよく行い、勘を研ぎ澄ませて情報を皆で集めて30年が過ぎ、ローマの通行証も効き目がない所へとやってきた。

皆、相応に歳をとり、ようやくたどり着いた。

通称「 魔殿 」

山の上から入り組んで整備された道が見え、遠くに広く大きく長大な階段の先に丸く黒色で紫線模様が描かれた丸い歯車のような結界が三角形にみっつ( 下に二つと上に一つ )その周りには光の鎖が巻き付けられて動いて三角を回っていた。

階段の左右の裸の崖山には無数の竜の形をした雷が出たり消えたり泳いだりしている。

3人の兵士とビアンカとロトの5人は ついに見つけたと思ったが、知っていることは、大軍などここには来られぬということ、我々だけの人数だから来れたこと、帰り道が分からぬほど入り込んで旅をしてきてしまったことだった。

食料や水も尽きる。

よく手入れをしていたロトの剣はまだ輝きを失っておらず、兵士三人の槍も同様だ。

ビアンカは老いたが美しかった。

ロト「 行かねばなるまい。戻ることは不可能だ。その途中で飢えて死ぬことになるだろう 」

黒い魔物が歩いている道を慎重に進んで行く。

戦いだしたら大変に手強そうだ。

そして山から見た入り組んだ道の絵を頼りに歩いて大階段の下へとやってきた5人。

上へ上へと昇っていく。

そして、禍々しい色の3つの巨大な歯車の結界が光の鎖で三角に縛られている。

ロト「 ここは無理であろう。ここまできたのだ。私は悔いがない。ビアンカはよく頑張ってくれた。お前たちリト、ザジ、リークの三人の男たちも 」

三人の男は髭だらけ伸び放題の顔で笑った。いつも髭を剃っているのはロトだけだった 」

食料が尽きかけ、水もあとわずか。

そのとき、空が真っ白に光り輝き、結界の周囲の闇の暗黒の力場が大嵐をおこすようにして暴れ狂い、飛び散った。

結界が内側からロトたちへ盛り上がるようにして膨らみ続け、眩しくて直視できない程の強さに白く輝く光が亀裂から漏れ、とうとう砕けた。

結界を縛って回っていた三角の鎖が大きく光を放ち、ちぎれちぎれになって砕けて飛び散った。

ロトたちは唖然としてそれを見ていたが、ひび割れた狭い隙間を目にし、ロトが言った。

「 さあ、行こう 」

5人は空いた亀裂の隙間を歩いて行った。

入った中は滅茶苦茶に建造物が散乱していた。

瓦礫の中心に背の高い青年の男が立っていた。

神「 お前たちの仕業か? 」

その男は右手に大鎌、左手に木のロッド、紫のローブ(法衣)を着ている。

息切れをおこしていた。

服はボロボロで砂埃をかぶり、怪我だらけだった。

転がりまわった後のように見えた。

ロト「 お前の名は? 」
神「 我の名はガート。この地域を統べる者なるぞ 」

ロトはガートに向かって走って剣を背中から抜いた。髭の兵士3人もそれにならう。

ガートは左手のロッドを向けてロトたち4人の動きを止めた。

ガート「 死神の鎌を食らうがよい。魂ごと消し去ってくれる! 」

ロトの首めがけて大鎌が振られた。

目も眩む光が降ってきた。

音が後からやってくる。

空からその光は来て、ガートの大鎌と体を打った。

大鎌は四散して粉々になった。

そしてガートの体を何度も何度も空を白く輝かせ、その雷に打たれるたびにガートの体はちぎれとんで少なくなってきた。

ガート「 だれの 」「 しわざ… 」

とうとう体が消え、声がしなくなった。

そのとき、空から女の声が聞こえてきた。

女の声「 あなたたち、よく頑張りました。
見事その男を見つけ出し、倒しました。
私にもそのガートという男の居場所がわからなかったものを困難な旅の末見つけてくださいました。
これで地上が少しでも平和になれば。ロトの願いでもあります 」

ロト「 その声は 」
謎の女の声「 私はラダ 」
ビアンカ「 あの声…、エステラよ。威厳があるけれど 」
ロト「 おお 」
エステラ「 そう。私の本当の名はラダ。もとの場所に帰る方法は…あなたたちは魔空空間に紛れ込んでしまいました。体はもとの場所には戻れません。魂なら呼び戻すことができます 」

**********************************

エステラは赤ん坊を抱いていた。

近所の女性が傍を通った。

「 エステラ。赤ちゃんようやく生まれたのね 」

エステラ「 この子の名前ロトにしようと思うの 」

近所の女性「 へえ、遠征討伐のあの彼氏と同じ名前ね。20才ならもう子供がいてもいいわ。ロトの子? 」

エステラ「 はい 」

エステラは涙を流して言った。

* 太陽の影 完 *
No.25 - 2026/03/08(Sun) 21:15:57
短編小説 / GIL
* 蜘蛛の糸 * 武井信夫 作

−西暦2026年1月9日(金) 日本芸術祭最高賞受賞作品−

お釈迦様のもとに罪人が二人運ばれてきた。

戦場で戦って兵士として敵として戦った者同士である。

柔らかい男性の声が聞こえてきた。

赤髪の男よ、お前は今まで人を何人殺した?
黒髪の男よ、お前は今まで人を何人殺した?

赤髪 「 覚えていないが十人ほどだ 」
黒髪 「 数えていないが同じかそれ以上か 」

声 赤髪よ、お前はどうして人を殺した?

赤髪 「 どうしてと言われても仕事だ 」

声 黒髪よ、お前はどうして人を殺した?

黒髪 「 生きるためだ 」

声 お前たちは強いのだな

赤髪 「 ああ、俺は剣の使い手だ。最後の最後に矢ぶすまを受けて死んだ 」
黒髪 「 俺は槍の使い手だ。最後は矢ぶすまにやられた 」

声 お前たちが殺さぬものは何だ?

赤髪 「 意味がよく分からぬが、人しか殺さぬ。草や木はころす。生きるために 」
黒髪 「 俺は人や動物をころす。食うために 」

声 虫は殺さぬのだな?

赤髪 「 特に殺そうと思わないが 」
黒髪 「 必要がなければな 」

声 ん、何だ?
女の声 「 あの二人は勇敢で根は良い人たちなのです。私には分かります。どうかお救いになって下さい 」

声 救ってどうするのか?
女の声 「 赤ちゃんとして別の時代の平和な国に友達同士として生まれ変わらせて下さい 」

声 そうか。ではお前が助けてみてやれ。

すると、そのとき、丈夫そうな白い糸が垂れ下がってきました。
女の声 「 1本しかありません。どうか…、 」

赤髪 「 蜘蛛か。蜘蛛は殺したことがない…、親の言いつけでな 」
黒髪 「 蜘蛛は役に立ってくれるので大人になってからは何もしたことがない 」

女の声 「 他にもあなたたちの周りには罪人たちが沢山います。気づかれぬよう… 」

赤髪 「 うむ 」
黒髪 「 了 」

赤髪 「 黒髪よ、動きを悟られるな 」
黒髪 「 おう、赤髪よ、糸が切れぬように慎重に登って行け。俺は下で回りの様子を見て警戒して牽制をする 」

赤髪がそろそろと凄い上腕筋と足で糸を登っていく。
黒髪が赤髪に 「 蜘蛛に長槍があれば下に落としてくれと頼んでくれ 」
赤髪 「 おうよ。まかせとけ 」

赤髪が、糸の途中まで登り、槍を下に落としてくれと頼んだ。

女の声 「 私の足をあげます 」

上から大きな蜘蛛の脚が降ってきた。
黒髪はそれを手に取った。
そのときは、黒髪は罪人たちに包囲され、何をしているのかとやかましく言われていた。

回りの罪人 「 お前たちだけ助かろうというのか? 」
一斉に大勢の罪人達が蜘蛛の糸に群がった。

黒髪が一騎当千の槍使いの振り回しをして牽制した。
罪人たちは近寄れない。

上から登り終わった赤髪が下に声をかけた。
「 黒髪よ、早く登れ。一人の重さが限界だぞ! 」
黒髪はぶんぶん蜘蛛の脚を振り回して、それを持ったまま片手で糸を掴んでしがみついた。
そしてするすると上へ引っ張られた。
黒髪は蜘蛛の脚を振り回し、罪人たちを近寄らせず無事に上まで引っ張られて登りついた。

すると、そこには豪華で綺麗な服を着た女が居た。
右腕が無かった。

黒髪 「 あなたの腕をお返しする 」
そのとき、蜘蛛の脚を掴んでいたつもりが、人の女の右腕を掴んでいた。

声 その右腕はその女の人に私がつけてあげます。
声 赤髪、黒髪。二人ともその女の人に免じて近所で男の子同士として生まれて、仲良くしなさい。
声 戦争のない国と時代を選んであげましょう。

* 蜘蛛の糸 完 *
No.24 - 2026/03/08(Sun) 21:07:35
短編小説 / GIL [近畿]
* 霧の中のジュン * つちやみずこ 作

−西暦2026年1月20日(火) 文化厚労賞受賞作品−

20歳になったお祝いとして旅にでた桜田 純子は東北の山深い旅館に到着した。

旅館のおばあさんがジュンを出迎えた。
「 一人で遠い所をようきなすった。もうご飯だで、温泉もあるで 」

ジュン「 ありがとう、おばあさん。わたし、男の子とか嫌いで。明日からさっそく神社巡りをしたいのだけれど 」

おばあさん「 それならば、気をつけてな 」

次の日の朝、ジュンは旅館を出て、山深くに沢山ある神社を見て回った。

ジュンは樹木に囲まれた狭い所で霧に包まれた。

すると、地図が役に立たなくなった。
ジュン「 全然違う 」
携帯電話も役に立たなかった。
何も届かない。

困り果て、持ってきたお菓子や、おにぎり弁当を食べながら自分はこのままでは死んでしまうと思った。

歩き進んで疲れ果てていたら、木の杭で出来た塀があり、門があった。
中にはずいぶんと小さな人影があった。
霧は相変わらず濃い。
その村は地図には無く、場所がわからない。

ジュンの半分ほどの背丈のおじいさんに尋ねた。
「 おじいさん、ここは何ですか 」

おじいさん「 わしらコロボックルだ。人間からは妖精とかとも呼ばれる。あんたの戻り方なんか知るか。わしらも行けんよ。それよりも、今わしら大変なんだ。悪いものが流れ出してな。病人や怪我人、頭の調子が悪くなってしまってなあ 」

ジュンもなんだか体調が悪くなってきた。

おばあさんが近寄ってきて、「 あんた体が大きいのう。頼まれてくれんか。奥殿と呼ばれるところの封印が解けてしまったようだ。それをなんとかしてほしい 」

ジュン「 わたし、お腹が空いて。あとお風呂に入らないと 」

おばあさん「 では、支度する 」

山盛りの炊いたご飯と焼き魚と山菜の入った味噌汁が出てきてジュンはがっついて食べた。

おばあさん「 風呂も体の大きさに合わんが沸いている。桶で汲んで体を洗え 」

ジュンは村で一番大きな入浴場へ案内され体を洗った。
服はコロボックルの人たちが工夫して洗ってくれた。

ジュンは大広間で座り込んでしまった。
おばあさん「 ゆっくり休みなさい。あまりいい夢も見れないし、体調もあまり良くならんだろうが。眠らなければな 」

ジュンは悪い夢を見た。
触手のようなものが追ってくるので逃げたり、骸骨が棒を持って殴ろうとしたりして、目が覚めると神経が疲れ切ってしまった。
これでは病気にかかっても不思議じゃない。
体も疲れがあまりとれない。ぐったりした。

おばあさん「 よくわかったろう。これは奥殿の昔退治されたアササボンサンの仕業だ。おまえさん、それを退治してきてくれんか。礼は後で決める 」

ジュンもこんな体調では嫌だと、それをすることに決めた。

ジュンは用意してもらった女性らしく露出の多い黒鉄の鎧をサイズを合わせて身に着け太い直剣一振りを持った。
パーツ型の鎧なので体に合った。
腰に道具類の入った丈夫な布の袋を下げた。
そして、カロリーの高そうな甘い食べ物をたくさん食べた。

おばあさん「 いいか。奥殿までの建物の部屋は一から四まである。最後の四の部屋に棺桶がある。アササボンサンはその中で息を吹き返しているに違いない。棺桶の鍵を外してそれを倒してからまた棺桶に鍵をかけてきてほしい 」

ジュン「 入ると一体何がおこるのですか? 」

おばあさん「 何がおこるのかはわからん。変わるのだよ 」
おじいさん「 建物の大きさから一番体が大きく背の高いお前さんがふさわしいと皆で決めた。来たばかりで済まないが 」

ジュン「 行きます 」

霧深い森に入り、道なき道を進んだところに石造りの建物があった。

村人たちが見守る中、ジュンはひとりで石造りの建物の中に入った。
「 邪気がでるのでな、扉は閉めさせてもらう。ここは一の部屋。出るときはそこで叫んでくれ 」

ドン!と扉が閉まると部屋が真っ暗になった。
ジュンは左手に持った松明に火をつけた。
すると、天井があるのに雨が降ってきた。
耳に若い女の不気味な笑い声が届いてくる。

ジュンは走り抜けて、真っ直ぐ二の部屋に向かった。
入り口を押して開く。
二の部屋に入った。
すると、髑髏と人骨が沢山降ってきた。
ジュンは走って突っ切る。
三の部屋に入ると泥に足をとられ、膝まで浸かる。
ずるずると力任せに歩いて進む。

ようやく四と石に刻印された部屋までこれた。
松明は切れたが、何故か明るい。

太くて巨大な尖ったあばら骨が暗闇から左右に飛び出す。
ジュンは転がって避けた。
ザクザクとあばら骨が飛び出し続けるのを避けながら棺桶まで来た。
腰の道具袋から大きな鍵を取り出し、四隅にある鍵穴を全て解錠した。
重いふたを手前から押してずらして棺桶を開いた。

ぎょろ目の縁取った原色の色とりどりの気味の悪い妖怪に見上げられてジュンは気を失いそうになった。
ジュンは尻もちをついて、のけぞって両腕で上半身を支えて両膝を立てて足を開いてしまった。
妖怪は棺桶から立ち上がって開いたままの大きな口から太くて長い舌を出して涎を垂らしている。
そして棺桶から出ようと動いている。

ジュンは足を震わせながら立ち上がり、落とした直剣を拾い両手で握り、「 タア! 」と声を出して左上から右下へ妖怪の胸までざっくりと斬撃をして、更に右上から左下へと斬撃を繰り返し、vの字型に妖怪の上半身を切り落とした。そして妖怪の頭を縦と横に一閃してバラバラに切り落とし、その残骸が棺桶の底へぼたぼた落ち、v字にえぐられた残った体も力を失い棺桶の中に崩れ落ちた。

原色が棺桶の底でぐにゃぐにゃで動かないのを確認して直剣でブスブス突き刺してみた。何の反応もないので棺桶の蓋を後方から押してずらして棺桶の箱上部にぴったり合わせて鍵を四隅にしっかりとかけた。

すると、部屋が真っ暗になったが、頭の中の悪いものが消えた。

手探りで真っ暗の建物を四の部屋から一の部屋まで戻る。

三の部屋は泥が消えて真っ直ぐ石畳の上を歩けた。
二の部屋は人骨は降らない。
一の部屋は雨など降っていない。

ジュンが叫んだ。
「 終わりました!!出してください! 」
扉が開き、小さな村人たちが出迎えた。


ジュンはそこの村人たちとあの村で暮らしていくと決めた。

* 霧の中のジュン 完 *

No.23 - 2026/03/08(Sun) 20:53:32
短編小説 / GIL
* 竜牙(1) * 武井信夫 作

−西暦2026年1月9日(金) 文化厚労賞受賞作品−
−西暦2026年1月20日(火) 文化大臣賞受賞作品−
−西暦2026年1月20日(火) 文部文学賞受賞作品−
−西暦2026年1月20日(火) 文部大臣賞受賞作品−

ヤーッ パシ パシッ

ドタドタドタ

青葉高校剣道部、全国でも中堅に位置する連中がいる。

風井 竜牙 170センチ 60キロ 1年生のバッジ

風井竜牙は空手部がないことに残念がっていた。
子供のころからイジメめにあい、強くなろうとした竜牙だった。
中学から空手の町道場へ通い、喧嘩に明け暮れたが、内申書次第で落第しそうな気がしておとなしく過ごし、高校へ入ったら
もう喧嘩はやめた。自分の実力が喧嘩のレベルではないということに気づいたのである。

竜牙が空手を選んだ理由−柔道は性に合わない。ガニマタになるのは御免なのである。
           −剣道は武器がいる。
           −空手は立ち姿が美しい。
           −合気道?嘘っぱちだろう。
それだけだった。

喧嘩しても −− もちろん大人とはやらない。
いずれは自分も大人になるのだ。
その時にやればいい。

だが高校生の自分は高校生には負けたくない。

刃物を使うやつは論外だ。
キチガイである。
馬鹿らしい。
第一、そんな奴は殺しかねない。
少年院など行きたくない。

そこで剣道部へとやってきた。

空手着は空手部がないので見栄っ張りみたいで恥ずかしいので着ない。
ジャージはダサい。 
だから黒い普段の学生服(ガクラン)だ。
制帽まできちんとかぶっている。 

剣道部の顧問に申し立てた。
寸止めで稽古 ― お互いに有益であると顧問の先生が判断した。
ただし、竹刀はぶつけられる。
ガクランで防具なし。

剣道部の連中に生意気を言う俺を懲らしめてやろうとする空気がみなぎり、
みんなうずうず楽しみでしょうがないといった空気があふれている。

 一人目 − 防具で顔は良く見えないが真面目そうなやつだ。
須崎と書かれている。

ダンッ
         
喉を狙いつけて竹刀で突いてきた。
カウンターで須崎の眉間に俺の拳が止まる。

顧問の一本の声。

剣道部の連中の顔色が変わった。
竜牙が勝ったからだけではない。
動きが曲線を描き決めたからだ。

「 こんなやつがいるのか 」
顧問が言った。
「 これじゃ、無駄だと思うが全員相手しろよ 」

三十人いる部員のうち15人目で俺はつまらなくなった。
二人までなら一度に勝負ができると思い、そう要請すると、顧問も手をたたいた。

「 化け物ならしゃあねえなぁ 」

顧問は汗を拭きながら言った。
俺は夏でも長袖のガクランを着ている。
あまり汗も出ないためと、他のやつらと区別をつけておきたいのだ。
毎日母親が洗濯してくれるのでなんてことはない。
洗濯機と乾燥機で洗えばいいのだ。
制帽は器用に洗ってくれる。
優しい母親だ。

夏の道場内で動き、少し汗をかいてきた。

部員が二人がかりで襲ってくる。
先に攻める。
空手に先手なしとはいうが、いろんな意味で俺の空手には先手がある。
一人を倒すまでが集中のしどころで、いい訓練になり楽しい。

主将と副主将…一番強いのが二人がかりで襲い掛かってきた。
相手は俺に勝つつもりだとわかる。

片方に後ろに回られた。

間合いを取られ、こいつらは円を描くように動いてくる。
後ろと前、左と右に変化させ距離も大きくとったり小さくしてみたり。

< 竹刀を腕で受けるか?そうすれば一人倒せて後は簡単だ >

しかし、そんなことをすれば真剣なら腕がすっ飛んでしまう。
そんなことをしたら負けだ。

集中した。
 
< 一人だ >

倒す相手を変えないことだ。

相手は倒す相手をぶらそうとしている。
この相手はフェイントを仕掛けてくる。

こいつらの実力は同じくらい。

だが、なるべく先に強いほうを倒さないと面白くない。

俺はあえて難易度を上げた。

体の大きいほうの田中に決めた。

フェイントに乗らない。
間合いを一気に縮める。
狙いがばれてもいい。

竜牙は俊足を出し切った。

前後から振り下ろされる竹刀。
制帽がはじめて宙を舞い、顧問の足元まで飛ぶ。

読まれたのか田中がフェイントから胴を狙ってくる。
スピードで押し勝つ竜牙。

回転してよけながら背中を向け裏拳ががつんと面へと当たる。
防具をつけていなかったら鼻が原型を留めなかったであろう稲妻のごとき体さばきからの一撃であった。
頭が揺れて尻を床につく田中。

もう一人が迫ってくるが正面を向いている竜牙はするすると∞を描いた動きで相手に迫り竹刀の動きを狂わせ懐に飛び込むと正中線に上から下へと四発入れた。

***************************

柔道部の三島が巨体を揺らして廊下を歩いていた。
顔に肉がたっぷりついていて、眼には変質狂の光が宿っていた。
昼休みの学生食堂へ向かうが、みんな三島を恐れていて目を合わせないよう下を向いていた。

竜牙は混んでる食堂の入り口で天玉蕎麦を食べていた。

そこへ三島が人を睨みつけながらやってきた。
竜牙と目が合う。

「 どけ 」と、三島は言う。

「 ずるるる 」と蕎麦をすする竜牙。

その目は三島の目を見ていた。
そのまま蕎麦麺をたいらげ汁を飲む。

目は三島の目から離れない。
空になったプラスチック製のどんぶりを左手に持ったまま三島と目が合い続ける。

「三島さん」と声が飛び、そこへ体の大きな学生服の男子が食堂に5人、入ってきた。
飯を食いに来た柔道部員たちだろう。

ほかの生徒が少し怯える。

「三島さんこのチビがなにかしたんですか?」
「いや、このやせっぽっちがな」三島の顔は真っ赤になっていた。

三島はほかの生徒の前でメンツを潰されたと思っていた。
右手で竜牙の胸ぐらを掴もうと手を伸ばした。

ぱんっ

竜牙のどんぶりを持ったままの左手が三島の腕をはじいた。
はじかれた三島の腕は右上に勢いよく大きく飛んだ。

「この野郎!!」三島は両手で竜牙の胸ぐらを掴もうとした。
その時。

パン!

と、三島の左頬がぶるんと揺れて、体が横へ揺らめき飛び長方形のテーブルに大きな音を立ててぶつかり、ほかの生徒の料理を薙ぎ倒した。

カレーライス、うどん、そば、チャーハン、コロッケ、ラーメン、ハンバーグ、トンカツ、ソース、醤油。

顔を真っ赤にした三島が立ち上がって竜牙に襲い掛かる。

正拳突き

三島がまた同じ方向へと後方に倒れ、背中から床に散らばった料理の上へ倒れる。
真っ赤なめちゃくちゃの表情で立ち上がりかけた時、竜牙のスニーカーが三島の左顔面に飛んだ。
ぐにゃりと内股で丸く座して動かなくなった三島。

それを見ていた5人の柔道部員たちは一斉に竜牙に襲い掛かる―

3分後、最後の一人になった柔道部員が竜牙から逃げ回っていた。
物凄い量の汗をかいていた。

鼻血も両方の穴から吹き出し片足を引きずり頭をガクガクと振動させ逃げていた。
汗もかかず早歩きで食堂の外へと逃がさない竜牙。

端正な顔が笑っている。

「おい」―後ろから竜牙に声がかかる。
低い男の声だ。

大きい男が立っていた。

渡 康介 188センチ 90キロ 3年生のバッジ

竜牙は嫌な予感がした。
< こいつに負ける >

竜牙から先に手を出した。
膝を正面から蹴る。
危険な技を出した。

そこへ渡の足の裏が合わさる。

後ろへ吹き飛ぶ竜牙。
壁に背骨をぶつける。
立ち上がるに上がれない。
上から腕を決められ押さえつけられていた。
体の正面が床につき、後ろ手に腕を決められていた。

*******************************

大東流合気術 ― 実戦合気術として知られている。

渡 康介がそこの3段 天才

それを知ったのは竜牙の通う空手の町道場の道場主からだ。
竜牙の師匠である。

師匠は目が柔らかく優しい。
そして鋭く強い。
50歳をとうに越えているのに30歳の見た目だ。
髪は短かった。

師匠「 あそこのは強いぞ。理合いには理合いで勝つしかない。理合いで負けてるとな、どんな武術でも勝てない。空手で勝つには打撃を理合いと化す 」

竜牙は悔しかった。
早く勝ちたい ― そう言った。

師匠「おまえも天才だ。なんとかなる。もう一度やってみろ」

理合いに対して集中力 ― それが師匠からのアドバイスである。
集中力を強くする。

竜牙はその訓練を毎日徹底的にやった。

*******************************

渡の教室に竜牙は行った。

「おう、1年坊」

渡 康介が教室の奥から呼び出されて竜牙にそう言った。

「夕方か」

**********************

西日の差す屋上。
風井竜牙と渡康介の二人。
向かい合って立っている。

二人とも足を広げ仁王立ちだ。

渡「もうやめろ。俺との勝負は」

竜牙はやると譲らない。

< 腕の一本は折らなくては > 渡はそう決心した。

渡の顔面に竜牙の集中力の乗ったストレート。

< こいつ >

体を横にするように避ける渡。

< いつの間に >

< 本気でいかなければ >

渡の動きが変わった。
両腕を前に出し、指をやや開き、姿勢のまっすぐな自然な立ち方。
やや膝を落とす。

集中力と理合いで争う攻守。
打撃に掴みに両者譲らない。

攻守入り乱れた戦い。
掴みに避け。
打撃に避け。

1時間以上も経過し暗くなってきた。
竜牙の執念が増す。その執念による直感が渡康介の理合いを越えた―

先の先―― その戦いを一瞬、竜牙が更に越えた!

弧を描く外気味の左フックが渡の右顔面にヒット。
意識の飛ぶ渡。
そこへ竜牙は正面に移動し力任せの右正拳突きを声を上げて入れた。

「トウ!!」

前歯と鼻が砕かれた渡康介は倒れた。
竜牙は少しかがんで膝の上に両手をついて、肩で息をした。
汗だくになっていた。
倒れたままの渡康介を後にして学校屋上の階段を使い校内建物へと降りて行った。

*****************************

夏休み。
早朝、玄関に座りスニーカーの紐を縛り、リュックを引き寄せ立ち上がり背負った。
半袖の丸首シャツは鮮やかな青色である。
玄関を出ながら、「母さん、行ってきます」
竜牙は夏休みの間、旅をしながら修行をするのだ。
空気が新鮮だ。

竜牙は空を見上げ歩き出した。

* 竜牙(1) 終 *

No.22 - 2026/03/08(Sun) 20:45:20
短編小説 / GIL
* 竜牙(2) * 武井信夫 作 *

−西暦2023年2月4日(土) 文化厚労賞受賞作品−
−西暦2026年1月20日(火) 文化大臣賞受賞作品−
−西暦2026年1月20日(火) 文部文学賞受賞作品−
−西暦2026年1月20日(火) 文部大臣賞受賞作品−
−西暦2026年1月20日(火) 菊花賞受賞作品−

風井竜牙は渡康介を倒したことで、高校生では敵がいなくなった。
竜牙は高校3年生になっていた―

その夏休み― 煙草を吸いながら繁華街を歩いていたら、刃物を持っている不良3人にカネを要求され、そのうち1人の顔面へ右拳をいれて、半殺しにした。

残る2人は逃げた。

1人が倒れていた。

「死なねえものだな」と、竜牙は思った。

竜牙は 首を 締め付けない エスパーのような恰好を していた。
青い服、茶色いベルトを黒いカーボンバックラーで止め、ブカブカの白いズボンをはいて、黒ブーツ。胸には楔形文字のようなマークが白く縫い込まれていた。
縦線、横線、右上から左下へ斜めの線(縦横線の重なる部分にぴったり通っている)。
警視庁公安九課エスパー課隊員と同じ格好である。

普段からの繁華街でのこうした喧嘩に明け暮れるうちに、警察上層部に噂が広がり、見込まれ、警察が手を焼いている相手に高校三年生の風井竜牙に様々な許可― 殺人の許可を与えたのだ。 松濤館空手2段。

竜牙はサングラスをかけていた。
自分で選び抜き、安物だが センスが良い。
学校へ通う時もその格好だ。
竜牙には女子生徒からのラブレターが後を絶たない。

最近、テレビを賑わせている話題というか、ニュースや討論がある。
宗教団体の一つのようだが、強引に信者をつくるとかの話だ。

竜牙は警視庁公安九課で、その宗教−大上真理教へ潜入捜査と実情を調べてこいと井上部長に命令された。

制服はもちろん脱ぎ、素性を隠し、冬なので、白いセーターと紺のジーパンの格好になった。
高校3年生の痩せている竜牙にはよく似合った。

あまり寒さを感じないまで普段の空手の練習で鍛え上げられているためマフラーは暑かったので公安九課からの支給品のそれは置いて煙草を2本吸ってから大上真理教本部へ向かった。
いつも身に着けているサングラスはもちろん九課に置いていった。
髪の毛は くしでライオンの毛からちゃんと整えた。

日本の高校は竜牙が卒業したら全国、全校廃止である。
最近しばらく学校へ行ってない。行ってもあまり意味がないし、警察の仕事や訓練のほうが優先だったためだ。

東京に本部のある大上真理教が見えてくる。
2階建ての白い建物。竜牙は大上真理教のパンフレットをもって入信所へと足を運んだ。
九課から支給された30万円をもって「入信したい」と言って中へ入った。

背広を着た大男 −筋肉質 体は四角い−が、マイクを持って信者たちに怒鳴っていた。
説法のようだが、竜牙のデリケートで透き通った頭と耳にはとにかくうるさかった。

数見達治というその男は、新入信者こちらへと竜牙を小部屋へ案内し、しばらくそこの椅子に座って待つようにと鉄ドアを閉め、(ガチン)と錠をかけた。
そのとたん、竜牙は体がドロドロになった感覚に陥った。

天井の上部スピーカーからはカン高い若い男の声 − 二宮かおる と 名乗った − で 大上真理教 を 抜けたら 呪いが降りかかる、最後は死ぬ と 言いはじめ、 竜牙は今度は 頭の中に 引っ掻き 切り刻まれる ノイズを走り回された。

鉄扉の下の食事用の子扉からは簡単な食事が提供されるが、竜牙は食べない。
薬物に警戒したのである。水やお茶は飲むしかなかった。

3日目−竜牙が床に倒れこんでいた時、数見達治と二宮かおる( 痩せたノッポでワイシャツ半ズボン靴下スニーカーだ )が二人で部屋に入ってきた。
竜牙は弱ったフリをして − 弱っていたが − チラチラと様子を伺った。
直感でこの二人に念をかけられていたのだとわかった。

四角い大男が竜牙の体をドロドロの状態に、痩せたノッポが頭へのノイズである。
( 体と頭か なるほど ) 竜牙は理解した。

親玉を見つけ出してやっつけてやろうと決めた。

薬物を水の入った吸い飲みでぐったりしたフリの竜牙に飲まそうとしたとき、竜牙は爆発した。
3秒で数見と二宮は口から血と泡を吐いていて、扉が外から閉められそうになったとき、二宮を鉄扉へ投げた。
二宮は頭から隙間にはまった。
二人とも前歯も金玉も潰れたが、この位でいいだろうと竜牙は許した。
後で罪状を吐かせてやる。

二宮と数見を竜牙のいた部屋に残し、奪った鍵で鉄扉に錠をかけ、出た広場を見渡した。

すると、和式服を着て巫女の祈祷棒(おはらいぼう)を持った女が出てきた。袴などは使わず、洗練されている。
年増だが美人。竜牙の母親と同じくらいの歳に見えるので40歳か。
色白で眼(目)が凄い。 くしを 通しただけと 思われる髪は 黒光りして 前は 女らしく分け、後ろへ長く伸び、つるつるの黒髪直毛。化粧はしていないようだ。鼻の穴が小さく縦長で可愛い。やや面長か。

「 私は大上教の 江口しの と 言う。 お主、誤解しておるようじゃのう。 お主が進んでここへ入信してきたのだ。 その 冊子を持ち、カネを持参してな。 皆、今日の講義は終わりにする。 今日と明日は無しじゃ。 風井竜牙 と いったな。 ここには 大勢の信者が 後片付けやら なんやらで 残っている。 場所を 私の部屋に変えよう。 ついてまいれ 」

「 腹が減った 」 と 竜牙は言った。
しの「 そうじゃな。 握り飯をつくらせる。 食ってから、ついてこい 」

野菜の煮たものが入った和食器と具の入っていない味噌汁と海苔でくるんだ丸い握り飯が小高い食盆の上にのせられて運ばれてきた。

しの「 あの二人はのう、だめじゃ。わしにくっついて、仕切って、無茶苦茶だ。お前がのしたから、わしがこうして出てこれたのじゃ。わしを立てて宗教組織をつくって拡大を続けるなどと。わし一人で小さくやってれば良かったのじゃが、手に余ってのう。わたしは引っ込んでいた 」

竜牙「 すると、それじゃ 」
しの「 食い終わったか 」

体に何も異変が起こらぬどころか体に活力が満ちた竜牙は江口しの の後について彼女の部屋に一緒に行った。

しの が竜牙の眼を見た。
 
突然、しの が消えて電気が消えた。

竜牙はらしくなく心理に恐怖が芽生えた。
竜牙 < 俺がこんなことくらいで? >

入ってきた後ろの扉を開けようとしたら、ただの壁になっていた!
そしてしの の居た方を見ると、大きな机の上に虎が一匹いた!
虎は竜牙に襲い掛かる体勢になった。

竜牙は今までの空手の修行を通して成獣した虎には人が素手で勝てないことを知っていた。
筋肉というか、体がまるで違うのである。

しの の立っていたはずの方向の机の下 − つまり、虎はその机の上にいたのだが、竜牙はその机の下の方へ 走って滑り込んだ。
机の上から虎の体重の重みが机の音を立てている。
すると、竜牙の居る所へ、怯えた猫が入り込んできた。
白くて大きな洋猫だった。

どこかで見た猫だ。竜牙の知っている猫。
職場のメスのラグドールだった!
< ゆきち! >
竜牙は背中を丸めて素早くかばうようにかかえてゆっくり持ち上げた。

どんどん部屋が暗くなってくる。
行き止まりかもしれないが、机を俊速の足で背を虎に向けて出て、左に走った。長い通路。全力疾走である。

分かれ道にあたった。右側に90度の角度で通路が伸びている。
ゆきちが暴れ始め、竜牙を引っ搔いて右側の通路へ走り去って暗闇に消えた。
ゆきちを追って右側の通路を全力疾走する竜牙。

鉄格子に当たった。 猫のゆきちは 通れただろう。
戻ると虎に出くわすかもしれない―

「 ゆきち!どうするんだ! 」

竜牙は魔力のある猫ゆきちに頼っていた。
そこへ、おもちゃを持ってくるように鍵(金色のもの)を口にくわえてゆきちが来た。
離れたところに鍵をポロンと落とす。

後ろから虎がゆっくりと近づいてくるのがわかる。
竜牙は汗だくになっていた。

慌てた手で鉄格子の奥のカギを腕を伸ばして指先でやっと引き寄せて掴んだ。

鍵が合った! 後ろも見ずに 鉄格子を開いてそこへ虎が爪と牙をむいて襲い掛かってきた!
滑らかな動きで竜牙は鉄格子をくぐり扉を閉じて鍵を外側か内側かは分からないのだが、掛けた。
虎はガンガン鉄格子を攻撃している。

見回すとゆきちはもういなかった。

竜牙は暗い部屋に立っていた。< これが現実か? >

ゆきちが九課の助けか幻なのか分からないのだが、アイドルの魔猫のおかげで元の(?)部屋に戻れたようだ。

真っ暗。窓ガラスの外は曇り空の夜なのか、ほとんど明るくない。
後ろを見ると、入ってきたドアはまた壁だ。

前を見ると、嫌な予感はしたが 通路が三つのトンネルになっていた。

右側からゾンビ―の日本兵が行進してくる。ゾンビ―になっても戦闘行進している顔が青白い。

竜牙の性格的に一番離れた左側のトンネルには入りたくない。失敗しそうなのだ。

罠かもしれない― 真ん中のトンネルに突っ込んだ。 

真っ暗闇だが、濡れた石でアーチを描いたトンネルをピチャピチャ水を跳ねて竜牙は走った。
進むと、しゃがみこんで背中を丸めて何かを食べている男(?)がいる。
近づくと、角の生えた鬼が何か動物を食べている。その動物の足を引き千切り、毛のついたままの足を食べている。
竜牙は鳥肌が立った。汗も凄い。

猫を食っているのではないか―

よくみると軍服を着た鬼だった。
壁には三八式歩兵銃を立てかけている。

鬼がゆっくり振り向いた。目が蛇のような鬼だった。

そのとき、その目が恐ろしく光り輝いた。

竜牙は戦車の中にいた。これから樺太でロシアを迎え撃たなければならない。
ベテランに混じった少年兵として このままでは日本は と思った。
頼んで、上の外側の扉を開いてもらった。
日本陸海軍の航空機。

ロシアの上陸部隊を日本兵のベテランたちが機関銃や榴弾砲をポンポン撃って迎え撃っている。
竜牙の右肩にロシア兵の銃の弾が当たった。
「馬鹿!早く戻れ!」と、痩せた中年兵士が怒鳴る。

戦車内では鳥かごに黄色い鳥を飼っていた。

この鳥は何ですか と 竜牙は聞いた。
「毒ガス探知用だよ」

その鳥が暴れたり、死んだら これをつけろと 毒ガスマスクをどさりと置かれた。

そのとき、鳥が暴れ始めた!
毒ガスマスクを慌ててつける竜牙。 
皆つけはじめる。

その時、竜牙は鳥をかごから出し、上扉を開き、外へ逃がしてやろうとしたが、飛べそうにない程に弱っていたので、自分の懐へ入れた。
「 もう たくさんだ! 」
そのとき、ふと竜牙の鋭く強い直感が走った。
迷っている。自分は迷っている。
真っ直ぐだ。最短距離を真っ直ぐ。
竜牙は戦車を出て銃弾飛び交う地上へと軍服とマスク姿で戦車から飛び降りた。

そのとき、部屋に戻った。

窓ガラスから月光が差している。
さっきよりは明るい。

人影があった。
顔を睨んだ。

相手の目が強烈に光った!

竜牙「 真っ直ぐだ 」

一瞬 異世界に入るが すぐ戻る。

また部屋の光景で月明かりの窓。人影。

ゆらり ゆらり と世界がぶれるが、油断や不意を突かれなければ、その程度で済む。

江口しの が近づいてくる。ズーム・アップされるように眼が巨大だ。そしてもの凄い輝きを放った!

真っ暗な円形コロシアムで野犬の群れに囲まれている。
人骨が散らばっている。
十字架にかけられた職場の知り合いの女、菊花と三村なおと、鳥かごにゆきちが入っている。
三人と一匹が数えきれない眼の光る野犬の群れに襲われているのを悟った。
竜牙は足を犬に食わせながら、ゆきちを鳥かごから出し、胸で抱いた。
器用に菊花と三村なおを十字架からロープをほどいた。
激痛と出血と疲労で頭がぼんやりしてきた。
左腕に菊花、右腕に三村なお、首に猫のゆきちを巻き付けてコロシアムゲート出入口へ進んで行く。
本当の痛みだった。竜牙の足は噛み跡だらけで食いちぎられ骨が見えてきた。
コロシアムゲートに進んでも延々と距離があり、何故か近づけない。
骨だけの下半身になりそのまま立った。
歩けずそのまま立つ。
ゆきちが怯える。
菊花と三村なおは眠ったままだ。

そのとき、床に横たわった姿で大量の汗を流しセーターやジーパンをびしゃ濡れにした竜牙は意識が飛び戻った。
江口しの が無表情でパイプ椅子に座っていた。

しの「 わしは折れた 」

竜牙の左肩が痛む。
戦車の時に撃たれた傷か。
手当されている。

江口しの が手当したのだろう。
包帯が巻かれているようだった。

しの「 わたしに何か用があるのじゃろう?好きにすればいい 」
竜牙「 警視庁公安九課に来てもらう。いいな? 」

*********************************

二人は任意で九課へ来た。
江口しの は全て話した。
目的は宇宙の真実に近いことを皆に説いていたこと。
大上真理教の教義の内容、団体の仕組み、犯罪者にまとわりつかれて大団体に近くなっていったこと。

しの の服はサクラ色の和式服で赤い傘と書類カバンという格好であった。

しの「 一体、虎の時の猫はなんじゃ? 」
九課「 ああ、我々が派遣したのです 」

そのとき、あのときの大きな雌の洋猫が竜牙に抱っこされていた。

教義の内容は間違えた内容ではなかったこと。
金儲けではなかったこと。
しの 自身はそう。

周りの連中たちが悪く、組織にして しの のとりまきや集まりを腐らせてしまった。

しの は 竜牙に抱っこされている猫を撫でた。
しの は 自分を打ち負かした竜牙に恋心を抱いた。 
しの の申し出により、警察力で大上真理教を解体した。

* 竜牙(2) 終 *

No.21 - 2026/03/08(Sun) 20:30:14
短編小説 / GIL
* 竜牙(3) * 武井信夫 作

−西暦2026年1月20日(火) 文化厚労賞受賞作品−
−西暦2026年1月20日(火) 文化大臣賞受賞作品−
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−西暦2026年1月20日(火) 文部大臣賞受賞作品−
−西暦2026年1月20日(火) 菊花賞受賞作品−

大人になって成長した風井 竜牙28才と渡 康介30才。

渡 康介が竜牙の居る松濤館空手の道場へとやってきた。
渡 康介は自身の所属する大東流合気術会の師範クラスの判定人ふたりを伴っていた。

大東流合気術会はあらかじめ松濤館に連絡してあったので、
道場の中には竜牙が正座していた。竜牙の師匠と江口しの の3人が居た。小さな町道場である。

渡は 何でもありかルール有りかを竜牙に聞き、渡康介はルール有りのほうが良いというが、竜牙は無しだ。と、言った。
それを聞いた渡康介は承知した。

竜牙は 空手の研究、それを渡のやつはしてきたのだろうと思い、そう聞いた。
渡「いや、そんなことはせん。ただ訓練を続けた」 − 偏れば渡の流儀を逸脱してしまう。

高校生の時は、竜牙が渡にリベンジとして訓練してある日いきなり挑戦した。

今度は渡の番だということになる。

実は渡は本当に空手研究などしていない。自分の強さを徹底的に上げた。それだけであった。
物事の見方をよく知っている男であった。

開始。
間合いを両者一気に詰めた。

とたん、竜牙が大きく投げ飛ばされ、両足で着地した。中腰。
左ひざが後ろ、右足が前の姿勢、両手を伸ばし、指で床に触れ、獣のように四つ足に近い。
竜牙は道着を掴まれ、投げられた。
それだけであったが、渡の理合に竜牙の集中力が及ばなかった。

しかし、竜牙には勝つ自信があった。高校生の時は やはり、気を付けていた。
たとえば、目突き。そのときはそんな思いも自然と浮かばない。それと、そのときの技量では合気術家に目を突くのは不用意だったろう。精度の高い技、何といっても武術家の目を突くというのは肉眼で見えている。渡には通じない。しかし、今の竜牙(自分)なら―。

竜牙の師匠はあぐらをかいた姿勢で紙巻きたばこを吸いながら見ている。

大東流のふたりの判定人は持参したパイプ椅子に座って、ひとりがビデオカメラで撮影して、死合いをよく見ている。
この場合、どちらが勝ったのか見届けて伝える役目になっているのだろう。 ルール無し、である。素手、身に着けた衣類のみということであるが、竜牙は空手着、渡は青いチャイナ服を身に着けていた。渡の服は大きく余裕があって、ややブカブカであった。暗器でも隠せそうだ。

竜牙の顔 ー 特に目がひどく狼に似てきた。

竜牙は狼の生まれ変わりなのではないか ー そんな印象を周りに与えた。

竜牙が、着地したところから∞を描いて、渡の斜め近くに移動して、渡の喉笛に豪速で指で渡の両目をえぐりだそうとしつつ、よく発達した歯と犬歯で嚙みついた。
渡はどうにもならない。両膝を床に突き、血しぶきがあがり、竜牙の師匠が大東流の判定人に止めろとあごで合図した。
異常なスピードと効率の良さであった。

竜牙の師匠「こんな奴にルールなしで勝てるかね?」

判定人ふたりは青ざめて止めにかかるが、止まらない。

竜牙の師匠「竜牙にお前の勝ちだと、でかい声で言え」

判定人ふたりはその通りにした。

口を血まみれにした竜牙が立ち上がり、渡の喉から嚙みちぎった何かをペッと床に吐き捨てた。

血しぶきの床を竜牙の師匠が見て、「竜牙、後で水拭きしとけ」
竜牙は「ハイ」と答えた。

渡康介は転がって気を失っていて、包帯をぐるぐると竜牙の師匠と判定人ふたりでとで手当てしている。

竜牙の師匠 「 何が良くて何が悪いかなんてルールは、武術じゃない。
素手で服を着ている。それだけだ。な。
その渡ってやつも竜牙以外には全戦全勝、天才だな。よほど強い。世界最強だったんだろうが…。
テレビでも渡のことは知ってる。でも公式試合なんだろ、これ。2番になったなその男 」

大東流合気術師範判定人「ルール有りだ」「それでいずれ再戦を」

竜牙の師匠「 おいおい、負けをまた認めたな。何度負けるつもりだ。ルールというのはお前たちが松濤館に勝つための縛りだ。それを押し付けたら押し付けたほうの負けだ 」

師匠「 終りだ。 竜牙、救急車呼べ。 かなりの重傷だ 」

渡のぶ厚い包帯が真っ赤になって血がしたたり落ちそうだ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

竜牙と竜牙の師匠は一緒に道場で、でかい握り飯、海苔が巻いてあって鮭がたくさん入っていて山積みにしたものをうまそうに食べていた。
江口しの と 竜牙 と 竜牙の師匠 3人でこしらえたものだ。

しの が、大きい握り飯をひとつ両手に持ってすこしずつ上品に食べている。

師匠 「 どうだ、竜牙、格闘世界一の男になった気分は。あの渡康介ってのが、今までに世界中の格闘家ぶち負かしてブラジルやロシアやオランダまで行って化物を全部倒してきてくれた。 渡康介に感謝するんだな。
もっとも、あいつは金持ち、お前はバイトの稼ぎ 」

江口しの 「 このことを世間に知れ渡らせねば 」
竜牙 「 そうだ 」
師匠 「 ファイトマネーの入らない試合だったけれど 」

江口しの が 大東流合気術会本部へ行った。
しの 「 こちらは挑まれて命がけです。ファイトマネーを貰っていません。ファイトマネーは、格闘誌、テレビで報道すること。そちらの一人がビデオカメラを持って録画していました。それを貸してもらうこと 」

大東流合気術会最高指導責任者「 仕方ありません。そのようにいたします 」

録画テープを 江口しの が テレビ局や雑誌社に持っていき、大東流合気術会判定人ふたりと一緒に各社を回り、売り込んだ。

売り上げは大東流合気術会に全部入るという条件だ。

視聴率を稼ぎ、雑誌社からもカネを受け取り大東流関係者は去り、江口しの は多少インタビューに質疑応答した。
美人なので しの は人気が出た。

竜牙はファストフード店のバイトをして、道場稽古をして、酒を飲んだ。

今日は、竜牙と渡の試合のテレビ放送がある。

居酒屋の親父は竜牙に言われて、チャンネルを合わせてある。雑誌社などは契約としてテレビ放送後に一斉にその内容を公開する手はずになっている。

空いてる居酒屋で値段も安いところだ。

風井竜牙と渡康介の試合の全編が流れた。

最後はカメラが床に転がって「竜牙の勝ち!!」とか救急車の音などが入り、竜牙は正座して後ろ姿。渡康介は救急隊員の足音と共に運ばれ、道場の音声も一部始終入った内容であった。
テレビ局の解説の音声や、字幕も入り、他の客はライオンヘアーの若い客が、その渡康介に勝った男本人だと少し疑ったが、店主の親父は分かっていても特に何も言わない。
渡康介の名は全世界的な名声を浴びているだけに解説にも熱が入っていた。

ビールを飲んでいる竜牙は番組が終わり、すぐに店を出て、帰って寝た。

竜牙は次の朝、スポーツ新聞を買いに行き、渡康介と風井竜牙の死合の内容一部始終が一面で大々的に写真付きで公開されていた。

日本の格闘技者番付で1位が風井竜牙 2位が渡康介 3位以下は外国人勢でほとんど占められていた。最上位1位と2位が日本人。海外でも同じだった。渡康介の功績がもの凄かったと言っていい。

闘技者の「格」という面では 渡康介の評価の高い記事になった。

それから1年が過ぎた。町道場ではなく大きな別の道場で竜牙は訓練を積み30才で松濤館空手の師範役になろうと決めていた。
アルバイトの仕事はそれからやめるつもりである。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

有名プロレスラーが金的と目つぶし、嚙みつきなどなしでプロレス有利と思われるルールでテレビ生中継を申し込んできた。
相手は日本人プロレスラー ゴールド森上 という、身長210センチの大男である。日本最強のプロレスラーである。
竜牙はその申し込みを受けた。インチキでも見世物でもない。
こうしろ ああしろ と内容をプロレス団体が言ってくるが、竜牙は全部断った。ギャラも最初の言い値。他のカネも受け取らない。
勝っても負けてもファイトマネーは同じである。

試合前の日は睡眠妨害をされぬよう、ホテルではなく大きな松濤館の道場で皆に守られてよく眠った。

試合当日会場。
ゴールド森上がリングに登場してきた。
顔や体に油を塗って光っている。上半身は筋骨隆々の体で下半身も凄い。竜牙から見ると筋肉をつけるために異常に筋肉トレーニングをしたあとが見られた。

< 渡ならどうするのだろう― > クールな頭で竜牙は考えた。 < 渡ならばとるに足らない相手 >
そんな印象であった。
竜牙は170センチの痩せた体で空手着。ゴールド森上とのボリュームの差は凄かった。
竜牙はまるでみすぼらしい子犬だ。観客たちテレビの前の人たちはそういう印象を持った。
竜牙のコーナーには松濤館の師範ふたりがつき、とくに何も言わない。
平然としている。

ゴールド森上は、口にペットボトルのオイルをいれて炎を口から吐くパフォーマンスをしてみせた。

プロレス団体からネチネチと強引にプロレスルールに結局決まった。その代わり、事前にどちらが勝つ負けるの筋書きはない。
松濤館はそれは守り通した。

会場は白熱していた。

赤コーナー、格闘ランキング世界一位、風井竜牙!
青コーナー、地上最強の怪獣、全日本プロレス所属、ゴールド森上!!

(ゴング)カァァン!

竜牙の俊足で間合いを詰める。ゴールド森上は止まって見える。
実戦になると竜牙の目は狼の目になるように、この前の渡康介との一件以来そうなっていた。

飛び上がっての左拳。フック気味からの上段に弧を描くパンチ。ゴールド森上の右唇の上に当たり、歯がグシャグシャに砕けた感触がした。
いくらでも倒す手があると悟った竜牙は、面白い見世物にしてやろうと思った。

下からの掌底。森上のあごにヒット。

森上はグラつくが、倒れない。うかつだった。舐めていたと竜牙は思った。
拳でやるべきであった。それで終わりだった。
手加減をすると負ける― その経験が足りなかった。

ゴールド森上が両手を広げてコーナーに竜牙を追い込もうとして重戦車のように のし、のし、と歩く。竜牙はそうはさせまいと森上の周りをぐるぐると回る。 そのときの竜牙は狼の目ではなくなっていた。

< くそっ、俺の目 >

足は健在だ。一か八か金的をと思ったところで蹴り足を曲げて伸ばすところをピタリとやめた。
反則技―

「チッ」 竜牙は汗が噴き出た。

渡康介なら取るに足らないような相手に。渡ならこのルールでもこの油男を手玉に取るだろう。
そこへ―
首に黒い革バンドをつけた渡康介が前方のパイプ椅子に腕組みをして座って試合を見ているのに気がついた。真っ黒なボタンのない学生服のような恰好をして足を開いている。三島由紀夫の街宣服と同じだ。顔は静かに唇が引き締まっている。

竜牙は笑った。< プロレスか。プロレスだった。 >
渡の側へロープを片手で握ってポンと跳ねてリングを降りた。そして森上に挑発した。

「 俺はここだ、うすのろ!俺が怖くなければ降りてこい! 」 唾を森上の顔に正確にピュッと長距離を飛ばし見事、森上の目に当たった。

ゴールド森上が のし、のし、と 雄叫びを上げて降りてくる。
竜牙が待たずに森上の片足を両腕で抱きしめた。

そのまま、足に全体重をかけてひっぱり、リングの床へ転倒させようとした。が、びくともしない。

ゴールド森口の体重は140キロ。竜牙は60キロ。
それは無理であった。

「うおおおお」竜牙はゴールド森上の太もも と ふくらはぎに鉄の握力でぎしぎしと指を食い込ませた。肉が千切れる。森上が、はじめて慌てた。

森上は体ごとあわててリングの外へ自分を出した。
竜牙に握られた足を軸足にして、もう片方の足で竜牙を踏みつけようとした。
そこで、竜牙が、指を食い込ませた森上の足を前方へ引いた。

勢いよく森上は後方へ倒れた。

渡康介の目の前でそんなことをしていた。

竜牙は森上の胸へ飛び乗り、馬乗りになって顔を連打した。
バシバシバキバキバキバシ
あまりの連打に森上は竜牙を跳ねのけるタイミングの余裕がない。
竜牙もそれが狙いだ。

40発目の突きで森上の顔は真っ赤に腫れあがり、様子のよくわからない顔になった。
血まみれで、まるで細い血の滴るトマトを潰したような顔になった。

竜牙「 お前、まいったをしろ! 」

レフェリーは止めない。

10発の頑健な正拳突き。一発一発、正確に入れていく。 ガシッ ガシッ ガシッ

森上の前歯はもう無い。 目を狙わず、鼻は殴ってよいものかどうか忘れていたが、竜牙は正拳をいれる。 一発。 一発。
鼻がなくなったら、他の場所を狙う。

一発。 一発。

ギブアップするまでそれを続けようと決め、重く一撃を間隔をゆっくりにして、正拳を一発ずつ入れていった。

やがて―  大歓声があがった。

レフェリーストップである。

渡康介がポンポンと手を叩いた。拍手である。少し笑っていた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

竜牙は駅で新聞を買った。

闘技者番付では1位のままで
渡康介は2位

その他海外の化物が3位以下にずらりとならぶが、

格というものが、渡康介のほうが上の評価であった。

***********

夕日の公園 −  渡康介と風井竜牙が、長いベンチに座っていた。

渡が吸っていたピースを捨て、足で火をもみ消し「公式じゃない。打って来いよ」と、言って立ち上がった。
右手の手のひらを上げる。

そこへ竜牙が、右の速い突き。

竜牙の拳が、渡の大きな手のひらに握られ、竜牙は宙を舞って 渡の後方へ投げられていた。

竜牙は両足で着地した。

3輪車にのった女の子がアイスキャンデーを食べていた。
買い物袋を下げている。

女の子「 お買い物したの。飴あげるね 」
渡が女の子を両手で胴を掴み、持ち上げて抱っこした。

それから、竜牙の肩に女の子を乗せて

渡「 落とすな。気をつけろ 」

竜牙と渡は、暗くなるまで女の子ひとりをいれて、砂場や、滑り台や、ブランコやグラウンドで遊んだ。

ふたりとも女の子のくれた飴やチョコレートが美味しかった。

* 竜牙(3) 終 *
No.20 - 2026/03/08(Sun) 20:23:33
短編小説 / GIL
* 竜牙(4) * 武井信夫 作

−西暦2026年1月20日(火) 文化厚労賞受賞作品−
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−西暦2026年1月20日(火) 文部文学賞受賞作品−
−西暦2026年1月20日(火) 文部大臣賞受賞作品−
−西暦2026年1月20日(火) 旭日殊勲賞受賞作品−
−西暦2026年1月20日(火) 菊花賞受賞作品−

竜牙は技というか、流派というものを、まだろくに持っていなかった。
物凄い運動神経と動体視力のみと言ってよかった。

竜牙の師匠は松濤館八極拳の生みの親である。
基本の出来上がった竜牙に八極拳の理合いを少し教えた。

攻めて、相手が姿勢の真っ直ぐな時にいきなり近い間合いで相手の斜め後ろへ踏み込んで、背中で相手の体を後ろから打撃する技であった。
竜牙相手にやって見せて「 これが鷂子穿林(ようしせんりん) 」
竜牙の師匠「 そこから相手をかく乱しての攻撃をする 」
と教えて、竜牙はそれが気に入った。

竜牙の師匠「 小さい奴の剛法だ。小さい奴が大きな相手に戦うには向いている。本部に行って習ってこい 」

**************

竜牙は東京の本部へ行き、八極拳を習った。
運動神経の良い竜牙は鷂子穿林(ようしせんりん)を徹底的に練習したが、運動神経が良いために、理合いをあまり重視していなかった。
竜牙は松濤館本部の連中にはなかなか通用しなくなってきたところで本部の先生に言われた。
「 大阪にな、女の子だが、八極拳が得意なのがいる。そこへ行ってみろ。紹介状を書いてやる 」

**************

結城晶(ゆうき あきら)18才。なんと女子高校生であった。短髪で可愛い。

晶「 極めれば大きい人に五分かそれ以上に戦えるんですよ。私のは女性向きのシンプルな八極拳ですけれど、竜牙さんは男性向きのをやったらどうでしょうか 」

晶「 私と試合をしてみませんか? 」
竜牙は少し焦った。
女相手には狼の能力が出ないのである。

竜牙「 よし。やろう 」

晶の飛び上段蹴り一段。下から蹴り上げた。
それをガードした竜牙。
かなりの衝撃で、食らったら大変だ。
ガードしたことにより、竜牙の動きが止まった。
晶が竜牙へワンツーの左右のパンチ−八門開打(はちもんかいだ)。
それもガードする竜牙。
竜牙がミドルキック−側腿(そくたい)で反撃したら、いきなり竜牙が後方へ吹き飛んだ。
カウンターで晶の高速踏み込みの肘打ち−裡門頂肘(りもんちょうちゅう)。
立ち上がりかけた竜牙に「 つ… 」と晶が踏み込んできた。
竜牙は立ち上がってガード姿勢−裡門頂肘(りもんちょうちゅう)を警戒した−
そこへ晶の鷂子穿林(ようしせんりん)が決まり、竜牙は後ろからバシンと打撃を食らい、よろけた。
晶の姿は竜牙には見えない。
後ろから晶のミドルキック−側腿(そくたい)が竜牙を蹴り、今度は反撃しようとした竜牙に晶の−裡門頂肘(りもんちょうちゅう)がカウンターでヒット。
吹き飛んで転んだ竜牙。
そこへ晶が間合いを詰めて転がっている竜牙に上からの突き−槍下炮(そうかほう)。衝撃で竜牙の体が浮いてまた吹き飛んだ。

晶が間合いを取った。
竜牙は立ち上がって、間合いを一気に詰めた。狼の能力が次第に覚醒してきた。

竜牙は寸止めだが、正中線四段突きを入れようとしたところへ、晶のガードを解いてからの飛び二段蹴り−連環腿(れんかんたい)がカウンターでヒット。左足の一発目で宙に浮いた竜牙を晶も宙に浮いたまま、体重を乗せて右足で竜牙を素早く力強く蹴った。

気を失った竜牙。

男の空手家に水をバケツでぶっかけられて竜牙は目を覚ました。

晶「 私の八極拳は女で非力だから思い切りが大事なんですよ 」
竜牙は負けてしまった。

理合いと、読み、勘、場数が違うらしい。
悔しさは何故か無かった。

男の八極拳−
竜牙は決めた。
その前に結城晶の出来ることはマスターすることにした。

竜牙は大阪で真面目に練習して鍛えた。

晶「 渡とやるんでしょ。私の技で勝ってほしい 」


−裡門頂肘(りもんちょうちゅう)
−猛虎硬爬山(もうここうはざん)
−鉄山靠(てつざんこう)
−側腿(そくたい)
−槍下炮(そうかほう)
−心意把(しんいは)
−鷂子穿林(ようしせんりん)
−連環腿(れんかんたい)
−上歩頂肘(じょうほちょうちゅう)
−倒身捜腿(とうしんそうたい)
−八門開打(はちもんかいだ)
−環捶腿(かんすいたい)

**************

東京の本部に戻った竜牙。
結城晶の技は全て覚えて体に身についた。

呼んであった渡康介がいつもの試合着である黒いチャイナ服を着て正座をして出迎えた。
四角い試合場の向こう側にいた−

* 竜牙(4) 完 *

No.19 - 2026/03/08(Sun) 20:12:16
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