<長編>
「A子の場合」
A子は18歳になるまで、田んぼに囲まれたものすごい田舎で生まれ育った。 実家は農家である。 春は畑に種をまき、梅雨の時期は田植えで泥まみれになり、秋は稲刈りで汗まみれになり、冬は餅をついた。 A子の生まれ育ったところは田舎である。 朝はニワトリが鳴くので目が覚めてしまう。 夜はカエルやら虫やらが鳴いている。 夏になると道路の上でヘビが寝ている。 冬は気温が冷蔵庫より寒くなる。 皆、玄関にカギをかけて外出する習慣などない。そして皆、近所に回覧板や我が家で採れた野菜を持って行って、そのお宅が留守であれば、勝手に玄関をガラガラ開けて、届け物を置いて、帰っていくのだ。 そんなド田舎で18年間過ごしてきたA子は、高校を卒業して、熊本の大学に通うため、一人暮らしを始めることになった。
一人暮らしを始めて数カ月…
熊本のビルはでかい。 鶴屋はA子の地元で一番のデパート4個分くらいでかい。
部屋に出入りするたび鍵を開けたり閉めたりするのに慣れない。 たまに忘れそうになる。 というか実際このまえ、鍵かけずに一晩過ごしてしまった。。。 しかも鍵をドアにさしたまま。
夜寝るときに思った。 カエルの鳴き声が聞こえてこない。 落ち着かない。 電気を消してもなんか明るい。救急車とか、いろんな音がする。実家にいたころは、うちの電気を消してしまえば真っ暗闇で、周りの家はじいちゃんばあちゃんばっかりだから、起きてる人なんて誰もいなくて、ほんとに静かで、もう寝る以外の選択肢がなかったのに。。。 私が寝る時間になっても、起きてる人、電気をつけてる人がたくさんいる。
熊本は、都会だなあと、A子は思った。 |
No.61 - 2010/03/10(Wed) 01:03:39
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